「仕事ができる人」になりたいと、多くのビジネスパーソンが願う。しかし、知識やノウハウを身につけたからといって、そうなれるとは限らないのが難しいところ。実際には、「仕事ができる」ためには総合的な能力が求められてくるからだ。そのスキルを言語化して豊富な実例とともに解説、ロングセラーになっているのが『Deep Skill ディープ・スキル』だ。「人と組織を巧みに動かす深くてさりげない技術」とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

仕事のできるビジネスパーソンPhoto: Adobe Stock

「仕事ができる人」の力を言語化した

「仕事ができる人」になりたいと考えているビジネスパーソンは少なくないだろう。今や手軽にさまざまな「学び」へアクセスができるようになり、勉強熱はますます高まっている。

 だが、知識やノウハウを手に入れることができれば、即「仕事ができる人」になれるのかというと、必ずしもそうではない。このことに気づいている人は少なくないのではないか。

 必要なことは、知識やノウハウを活用しながら、具体的に仕事をぐいぐいと前に動かしていく実行力だ。

 では、そのためには何が必要になるのだろうか? これを具体的に語ることができる人はあまりいないかもしれない。

 その力を「ディープ・スキル」と名づけたのが、本書の著者、石川明氏だ。リクルートで新規事業に幅広く携わり、のちに総合情報サイト「オールアバウト」社で活躍。

 2010年からは、企業における社内起業をサポートすることに特化したコンサルタントとして独立し、大手企業を中心に、新規事業の創出、新規事業を生み出す社内の仕組み作りを支援してきた。著者は100社、2000案件、4000人以上の企業人と関わり、人や組織を巧みに動かす力について理解を深めていった。

 著者は「はじめに」でこう記している。

これはビジネススクールで学べるような「理論」を超えた、「ヒューマン・スキル」とでも言うべきもの。「深い洞察」に基づいた「ヒューマン・スキル」であることから、私はこれを「Deep Skill(ディープ・スキル)」と名づけました。(P.5)

 本書は、著者が気づくに至った人や組織を巧みに動かす力「ディープ・スキル」について、著者なりに言語化しようと試みた一冊なのだ。

人々を味方につけ、組織を動かすことができる力

「仕事ができる人」が持っている実行力。では、そもそも実行とは何か。一人で仕事を実行しても、結果はたかが知れている。これが大きな人数の組織で行われるからこそ、大きな結果を生み出すことにつながる。

 実行力のある人が持っているのは、社内の人々を味方につけ、組織を動かすことができる力だ。だからこそ、著者はまず「はじめに」で仕事の本質を説く。

私は、仕事とは「誰かの“不”を解消し、喜んでもらって、その対価をいただくこと」だと考えています。「不」とは不安、不満、不快などの「不」。この「不」を解消して、人々に喜んでもらうことこそが仕事の本質なのです。(P.3)

 この文章を書いている私自身もかつてリクルートで仕事としていたが、リクルートで働く人たちが高いモチベーションを持っているのは、この仕事の本質を理解していることが大きいと感じていた。

 仕事は単に生活のための糧を稼ぐ場というだけではなく、困っている誰かの「不」を取り除くことができるものなのだ。もっと言えば、「ありがとう」と言ってもらえること。だからこそ、仕事に価値を見出せる。もっと頑張って「不」を解消し、人々に喜んでもらおうと素直に考えられるのだ。

 しかも、それが大きなスケールで行うことができるのが、組織である。

そして、会社員の強みは、会社が有するリソース(ヒト・モノ・カネ)を活用して、世の中の「不」を解消できるということ。会社のリソースを使えるからこそ、ひとりではとてもできない「大きな仕事」ができるのです。(P.3)

 そのための条件こそが、社内の人々を味方につけ、組織を動かすことができる力だ。しかし、これが難しい。

 一人ひとりの仕事へのモチベーションが高いといっても、組織をまとめるとなれば、簡単なことではない。人や組織は、理屈だけでは割り切れない複雑な存在だからだ、と著者は記す。

 人はいつも合理的に判断や行動をするわけではない。さまざまな要因で気持ちは揺れ動く。経営陣、上司、部下など社内の人々を味方につけるためには、そうした「人間心理」への鋭い感性が求められるのだ。

 また、そんな「人」が集まっている組織は、さらに複雑な力学のもとに動いている。同じ会社内であっても部署ごとに利害は異なり、ときには対立関係に陥ることもある。あるいは「社内政治」と呼ばれるような力関係の中で翻弄されることだってあるのだ。

 そうした「組織力学」に対する深い洞察がなければ、組織を動かすどころか、組織に押し潰されてしまいかねない。

 この「人間心理」と「組織力学」に対する深い洞察力、そしてその洞察に基づいた的確な行動力が問われるのである。

この2つの能力を兼ね備え、人と組織を巧みに動かす「実行力」を身につけたときに、はじめて「仕事ができる人」という評価を勝ち取ることができる(P.5)

 まさに「深い洞察」に基づいた「ヒューマン・スキル」。これが「ディープ・スキル」なのだ。

人と組織を動かす「実行力」が優れていた

 著者が「ディープ・スキル」の重要性を意識し始めたのは、新卒でリクルートに入社して5年が過ぎた頃だったのだという。入社当初、営業部門に配属され、社内でトップクラスの営業成績を収めることに成功したが、当初は知識やスキルといった個人の武器を高めることで成果を出すことができていた。

 ところが、社費留学制度で早稲田大学ビジネススクールを修了、新規事業開発室に異動してから分厚い壁にぶつかるようになる。

 リクルートは、数々の新規事業を成功させてきた企業。ほかの企業に比べれば、格段に新規事業を実現しやすい社内風土があったはずだが、著者にとってはいくつもの壁があった。

例えば、当時、社会に広がりつつあったインターネットを活用した事業提案をしようとすれば、紙媒体による既存事業とのバッティングが避けられません。その軋轢を乗り越えるのは、私にとっては非常に難しいことでした。渾身の力でまとめ上げた事業企画がいくつも却下され、何度も涙を呑みました。そのたびに、自分の無力を噛み締めたものです。(P.6-7)

 一方で、新規事業開発室の実績豊富な上司や先輩は、さまざまなステークホルダーに目配りをしながら、巧みに社内調整を進めていた。事業提案そのものが優れていたこともさることながら、それ以上に、人と組織を動かす「実行力」において優れていたのだ。

 その姿を間近に見ながら、「ディープ・スキル」の存在と、その重要性を強く意識していったのだという。そして、「人間心理」や「組織力学」に注目するようになり、見よう見まねで自分なりの「ディープ・スキル」を磨き始めることになる。

 その後、インターネット黎明期に立ち上がった生活総合情報サイト「オールアバウト」の創業メンバーとなり、会社は上場。企業における社内起業をサポートすることに特化したコンサルタントとして独立すると、改めて痛感するようになっていく。「ディープ・スキル」の重要性だ。

事業提案について社内承認を取り付け、関係者や関係部署の協力を得ながら実行するプロセス。つまり、人と組織を動かす「ディープ・スキル」が求められる局面において、多くの担当者が悩み、苦しむのです。そして、「ディープ・スキル」の巧拙が、新規事業の「成否」を決すると言っても過言ではないのです。(P.9-10)

 しかし実際には、「ディープ・スキル」が必要なのは新規事業を生み出す場面ばかりではないことは想像がつく。すべての組織人、特にマネジメントに関わる人に不可欠なもの。「仕事ができる」人になるには、必須のスキルなのだ。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』(日経ビジネス人文庫)、『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。