「まずは傾聴」「権限移譲が大事」……。世に溢れるマネジメント論を実践しているのに、なぜかチームが疲弊していく。その原因は、部下の「心理的リソース」の変化を見落としているからかもしれません。人の状態は、スマホのバッテリーのように日々刻々と変化します。同じ部下であっても、「心理的リソース」が満たされているときと、消耗しているときでは、対応策は異なります。この記事では、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』から抜粋しながら、部下の状態を「4つ」に分けて、それぞれの対応策をわかりやすく解説します。

「マネジメント論」を鵜呑みにする人ほど、マネジメントがうまくいかない理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

マネジメントに「正解」はない

「フィードバックはどんどんしたほうがいい」
「まずは傾聴だ」
「権限移譲が大事だ」

 世の中には、このように「○○すべき」と一般論で語るマネジメント論がたくさん出回っています。しかし、これを鵜呑みにするのは、非常に危険なことです。

 リーダーの持ち味も違えば、メンバー一人ひとりの個性も異なるため、どんな方法が効果的かは、一概に言うことはできないからです。もっと言えば、同じメンバーであっても、日々、その状態は変化しています。だから、半年前には有効だった方法が、突然通用しなくなることだってあるのです。

 私自身、それで失敗したことがあります。

 私のチームには、とても頼もしいメンバーがいました。
 いつも元気いっぱいで、目標に向かって驚くほどのパワーを発揮してくれる女性でした。どんなに難しいことを頼んでも、「よしきた、わかりました!」と笑顔で引き受けてくれるので、おおいに頼りにしていました。そして、「お願いする→彼女が形にする→一緒にブラッシュアップする」という流れが自然にできあがっていたのです。

 ところが、あるときのことです。
 いつものように「これ、お願いしたい!」と頼んだときに、「はい」という返事の声に、普段と比べて少し元気が足りないように感じました。けれども私は深く気に留めることなく、そのままにしてしまったのです。

相手の状態によって、関わり方の「最適解」は異なる

 それから数週間後――。
 彼女の様子は、目に見えて変わってきました。
 話しかけても笑顔が少なく、以前のような勢いが感じられないのです。

 そこで初めて、彼女に「何かあった?」と聞いたところ、ある案件での人間関係に悩み、強いストレスを抱えていたことを知りました。私は、彼女の様子がいつもと違うことに気づかずに、というよりも見なかったことにして、普段と変わらない関わり方をしていたことを強く反省させられました。

 彼女は責任感が強く、頼まれた仕事で期待以上の成果を出すことに「やりがい」や「達成感」を感じる人でした。だからこそ、私は、難易度の高い仕事を依頼することで、彼女の実力を最大限に引き出すマネジメントを心がけていたつもりでした。

 しかし、彼女が人間関係のストレスで心の余裕を失っているにもかかわらず、普段どおりの感覚で「負荷の高い仕事」をお願いした結果、彼女をさらに追い詰めてしまっていたのです。

 この出来事から学んだのは、メンバーへの関わり方は、常に、誰に対しても同じでいいわけではないということです。

 どんなに元気に見える人でも、消耗する場面は必ず訪れます。

 大切なのは、「この人は元気だから大丈夫」と決めつけないこと。そのときどきの心理的リソースの状態を丁寧に見極めながら、それに合わせたアプローチをしなければ、消耗しているメンバーをさらに消耗させたり、元気なメンバーのエネルギーを削いだりといった失敗をしてしまうのです。

4つのアプローチの「型」を知る

 そこで、相手の状態に合わせて、どのような関わり方をすればよいのかを整理しておきたいと思います。
【下図】をご覧ください。

「マネジメント論」を鵜呑みにする人ほど、マネジメントがうまくいかない理由

 この図解で示しているように、人間の心理的リソースの「状態」には、〈充足しているか〉〈消耗が大きいか〉の2軸で4つのパターンがあります。

 ・心理的リソースの充足が大きくて、消耗は小さい(やる気あり×元気あり)
 ・心理的リソースの充足が大きくて、消耗も大きい(やる気あり×元気なし)
 ・心理的リソースの充足が小さくて、消耗も小さい(やる気なし×元気あり)
 ・心理的リソースの充足が小さくて、消耗は大きい(やる気なし×元気なし)

 ここで、次のような疑問をもつ人がいるかもしれません。

「心理的リソースの充足が大きい」ことと、「心理的リソースの消耗が小さい」ことは、同じことではないのか?

 たしかに、両者は混同しやすい概念ではあります。
 しかし、この2つは全く異なる状態を表しています。
 なぜなら、「心理的リソースの充足が大きい」とは、「成長したい」「やりがいがある」「ワクワクしている」といったポジティブな状態を指している一方、「心理的リソースの消耗が小さい」とは、「疲労がたまってはいない」「人間関係のストレスが少ない」など、ネガティブなことが少ない状態を指しているからです。

 つまり、「心理的リソースの充足が大きくて、消耗も大きい」とは、「業務にやりがいを感じてるけど、疲れている」という状態であり、「心理的リソースの充足が小さくて、消耗も小さい」とは、「そんなに忙しくないけど、やる気もない」「疲れてないけど、頑張りたくない」という状態なのです。