「消耗」を止めるのが最優先
そして、この4つの「心理的リソースの状態」に合わせて、メンバーへのアプローチの仕方を次のように変えていく必要があるのです。
・やる気あり×元気あり→「お任せ型」の関わり
・やる気あり×元気なし→「手助け型」の関わり
・やる気なし×元気あり→「できるよ型」の関わり
・やる気なし×元気なし→「お休み型」の関わり
その基本原理は、次の2つです。
第1は、「消耗があるときは、それを止めるのが優先」という原則です。
先ほどの私の失敗のように、心理的リソースを消耗させているメンバーに対して、さらなる負荷をかけるようなことをすると、相手に大きなダメージを与えてしまいます。ですから、メンバーの消耗が激しいときには、その消耗を止めることをすべてに優先させることを基本原則としなければなりません。
第2は、「充足があるときは、負荷をかけても大丈夫」という原則です。
メンバーの消耗が激しいときには、「まずは消耗を止める」ことを基本原則としなければなりませんが、メンバーの消耗が小さいときに、「負荷をかけないように」と気遣いばかりしていると、彼らの成長機会を奪ってしまうことになりかねません。
ですから、メンバーの消耗状態が小さいことが確認できたときには、充足状況に応じて「負荷」をかけていくといいでしょう。特に、「心理的リソースの充足が大きくて、消耗は小さい」場合には、むしろ積極的に負荷をかけることで、メンバーの成長を促すことを原則とすべきなのです。
マネジメントがうまくいかないときは、まず、自分のアプローチを疑ってみる
この基本原理を押さえたうえで、4つの状態ごとのアプローチの仕方を以下にざっくりと解説します。
みなさんのチームのメンバーに対して、「どのタイミングで、どんなアプローチをするか」を見極める際の参考にしていただけると幸いです。
①お任せ型(やる気あり×元気あり)
意欲が十分あり、消耗も小さい状態です。
このときは「どんどん任せる」のが一番です。本人も「もっと頑張れます!」という姿勢なので、ストレッチした仕事を託し、成長につながるフィードバックやキャリア支援を与える絶好のタイミングです。
ネガティブなフィードバックも前向きに受け止めやすく、問いかけを通じて可能性を引き出すコーチングが効きやすいのもこの状態です。
②手助け型(やる気あり×元気なし)
意欲はあるけれど、消耗が大きくて力を発揮できていない状態です。
このときは「消耗を取り除く支援」を優先させます。
1on1で「今どんなことに消耗しているのか」を聞き、必要に応じてサポートします。案件の人間関係で悩んでいるなら話を聞くだけでも楽になりますし、思考力が落ちているときにはタスクの整理や優先順位付けを一緒に行うといいでしょう。
なお、成長を促すためとはいえ、この状態にあるときにネガティブなフィードバックを与えると、逆に心理的ソースを奪ってしまうリスクがあるので、注意するようにしてください。
③できるよ型(やる気なし×元気あり)
消耗は大きくないけれど、エネルギーが湧いていない状態です。
「どうせ自分にはできない」とあきらめていたり、「ここにいても願いは叶わない」と感じていたりするケースです。
このときに大事なのは、「あなたにはできるよ」という実感を得られる状態をつくることです。そのために、小さな成功体験を積めるタスクを与えたり、仕事の意味を語り直したり、具体的な期待値を示したりすることによって、相手の「期待に応えたい」という気持ちを呼び起こすことを意識するといいでしょう。
ただし、「無理やりやらせる」のは逆効果になります。北風ではなく太陽のように、根気強く寄り添う姿勢が必要です。
④お休み型(やる気なし×元気なし)
消耗が大きく、エネルギーも生まれていない、メンタル不調に近い状態です。
この場合は「休ませる」ことも選択肢に入ります。負荷を一旦下げ、感情的なケアや休息を優先します。体調が戻り、少しずつエネルギーを回復させてから、改めて成長やチャレンジの機会を設計するようにしましょう。
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このように、4つの状態に合わせて、メンバーへの接し方を変えていく必要があります。
これは、簡単なことではありません。メンバーが置かれた状況を的確に理解するだけでも難しいのに、その状態に合わせてこちらの対応を変えるのはかなりの難易度です。すぐに完璧にできるようになる必要はありません。
ただ、「相手の状態に合わせてアプローチを変えなければならない」ということを認識しているだけでも大きな意味があります。
なぜなら、マネジメントがうまくいかないときに、「メンバーに問題がある」という思考に陥るのではなく、「こちら側のアプローチが間違っているのかも……」という内省につなげやすくなるからです。
そして、メンバーのことをよく観察したうえで、より適切なアプローチを試してみる。その試行錯誤を続けることによって、私たちのマネジメント能力を着実に向上させていくことができるのです。
(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。









