「千尋の谷に落とせば育つ」は幻想、次世代リーダーの覚悟を引き出す3つの鍵経営者の重圧はシャレにならない。後継者を育てる際は「覚悟」を身に付けさせることが必要だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

後継者育成などの経営課題解決の支援を行うリクルートマネジメントソリューションズ コミュニケーションエンジニアリング部の河島慎氏が、経営者・幹部育成のヒントを伝える連載第2回。今回は、後継者不在の時代における経営・幹部候補の「経営者としての覚悟」醸成のポイントについてお届けします。

個人のスキル・知識だけでは太刀打ちできない
経営者に求められる「覚悟」はつくれるか

「経営者はシャレにならない重圧の中、意思決定している」

 これは連載第1回でもご紹介したサイバーエージェントの創業社長・藤田晋氏が、社長研修を実施するにあたって話された言葉です。経営者が「決断」を迫られる場面では、個人のスキル・知識だけでは太刀打ちできない「覚悟」や「度胸」が求められますが、その「覚悟」は醸成できるものなのでしょうか?

現実・体験に勝るものはないが
修羅場をくぐるだけではダメ?

「自分が社長をやっていると成長機会が全部自分にくる」

 藤田氏を始め、多くの経営者がこう話されます。やはり、逃げも隠れもできない修羅場体験、そこでの意思決定の積み重ねが人を成長させるということでしょう。しかし、「いきなり千尋の谷に落とせば育成完了」と言えるのでしょうか?2つの企業事例から、経営幹部育成の本質を考えてみたいと思います。

【事例①】
ある鮮魚店の経営幹部Aさん
「現実を前に元気を失った経営幹部」

 複数店舗を展開する鮮魚店の幹部Aさん。もともとは包丁で魚を捌く板前でしたが、顧客との関係構築に優れ、店長として着任する店舗の売上を次々と伸ばしていきました。社長はその現場感覚と人柄、実績を買って、経営幹部に抜擢しました。

 しかし、ここでAさんは壁に直面します。抜擢当初は意欲的で幹部会でも率先して発言していましたが、次第に元気を失い、やがて幹部会でほとんど発言しなくなってしまったのです。

「幹部会で話されていることが分からない。現場単位での売上ということであれば話についていけるが、それ以外のお金や投資、指標となると……全然自分にはわからないことだらけで……」