研修が転機に
新米の新幹部が見違えた理由

 この状況から、私たちがご支援させていただいた研修をきっかけに、Aさんは見違えていきました。自分の視点を生かして意見を述べるようになり、他の幹部が躊躇するようなことも提案し、決断、実行するようになったのです。

 象徴的なエピソードがあります。

 かつて店では生簀を置き、泳ぐ魚をお客様自身が選び、捌いてお渡しするというサービスを実施していました。しかし多店舗展開が進むなかで、コスト・手間を理由にサービスを中止していたのです。そこでAさんは、「これこそうちのサービスだ」と主張し、ある店舗での試験導入を提案。そこでの実演販売を大成功させ、全店舗への展開を実現しました。その後も、現場発のアイディアを数多く発案する、現場感覚で決めて動かせる幹部として、なくてはならない存在になりました。

理論・理屈ではない
何がAさんを変えたのか?

 一体、研修で何があったのでしょうか。ヒントはAさんの過去にありました。Aさんは研修で、自分の歩美を訥々と語りました。元々包丁捌きが得意ではなかった。入社以来、包丁の扱い方に始まり、どう切れば刺身がきれいに見えるか、どう陳列するとお客様に商品を手に取ってもらえるか――そればかりを一生懸命考えてやってきた。

 理論・理屈ではなく、まさに現場感覚で掴んできた知恵でした。それを聞いた経営企画や経理系の幹部が「それだよ、それ!うちに今必要なのは、そういう現場視点の考えなんだよ。我々には絶対できない話。Aさん!もっとそういう話を聞かせてよ」とAさんに伝えたのです。「え、こんな話をしていいんですか?」と驚くAさんに、「絶対に必要!」と背中を押してもらえたこと。それが転機でした。

 以来、少しずつ自分が感じていることを話すようになり、先ほどの生簀復活の提案につながっていったのです。