Cの「正しさ」より、稲盛氏の「非常識」が正解になった

 まずは、当時の緊迫したやり取りを、『心の京セラ二十年』から引用して振り返ってみたい。稲盛氏が「(京セラ製品を)明日からでも海外で売る」と宣言した際の、Cの反応である。

《ところがCは鼻であしらうような態度で(これは無意識のうちに出ている)、「貿易というものを分かっておられるのですか。まず一年くらい準備期間をとり、その間にマーケットリサーチして、二年目くらいからボツボツ売るのが普通です」と言った。これを聞いて稲盛は、「何を言ってるんだ、そんなまどろっこしいことじゃ話にならん、明日から売るんだ」と言った。》

《Cは、明日からでも売るんだという稲盛に、「非常識もはなはだしい、L/C知っていますか、FOB知っていますか、ユーザンス知っていますか」とたたみかけてきた。稲盛が「そんなもの知るわけないですよ」と言うと、「貿易のイロハも知らないで貿易をしようと思っても無理ですよ」と言う》

 客観的に見れば、Cの主張は正論といってもいいような部分がある。

 海外進出をするのに、信用状(L/C)や本船渡し(FOB)といった貿易の基本用語も知らず、市場調査もせずに飛び込むなど、無謀を通り越して滑稽ですらあったのだろう。

 当時の常識的なビジネスパーソンであれば、Cの側に立ち、稲盛をいさめるだろう。

 だが、歴史が証明しているように、勝ったのは稲盛の手法だった。京セラはその後、世界的な企業へと飛躍する。なぜ、Cの「正しさ」は通用せず、稲盛の「非常識」は正解となったのか。

 この謎を解く鍵は、2012年に発表された、ある研究論文の結論にある。

 オランダの研究者ハンス・ベレンヅらが、中小企業の製品開発プロセスを詳細に調査した論文「中小企業における製品イノベーション・プロセス:起業家的エフェクチュエーションと管理的コーゼーションの結合」(Journal of Product Innovation Management掲載)である。