大企業と中小企業の発想は全く異なる
この調査研究は、「大企業の常識」と「中小企業の現実」が、まったく異なる論理で動いていることを科学的に証明した画期的なものだ。論文では、意思決定には2つのタイプがあると説明されている。
1つは「コーゼーション(因果論)」と呼ばれるものだ。「まず明確な目的を決め、そのために最適な手段を選ぶ」という考え方である。「1年の準備期間で市場調査を行い、計画を立てる」というCの発想は、まさにこれに当たる。
もう1つは「エフェクチュエーション(実効理論)」と呼ばれるものである。「今ある手段(手持ちの資源)を出発点にして、何ができるかを考え、行動しながら目的を創り出していく」という考え方だ。
「貿易の知識はないが、技術と情熱はある。だから明日から直接売り込みに行く」という稲盛氏の発想は、典型的なエフェクチュエーションである。
さらに、著者は次のように述べている。
《コーゼーションのプロセスは、ある特定の効果(結果)を所与のものとし、その効果を生み出すための手段の選択に焦点を合わせる。エフェクチュエーションのプロセスは、一連の手段を所与のものとし、その一連の手段を使って生み出すことのできる可能な効果の選択に焦点を合わせる》
《コーゼーションは、意思決定や戦略的経営、マーケティングのテキストで典型的に想定されている、目標志向の管理プロセスである。コーゼーションは、特定の目標を定義した後、その目標を最も効率的に達成するための手段が探求されることを意味する》
大企業とは違う!持たざる者の生存戦略
Cは、当時大企業だった松風工業の出身だった。だからこそ、教科書通りの「コーゼーション」こそが、唯一絶対の正解だと信じていたのだ。資源を持っている大企業にとっては、それが正しい戦略である。
しかし、当時の京セラは吹けば飛ぶような中小企業である。資源もなければ、時間もない。そんな状況で「1年間の準備」などしていれば、その間に資金が尽きてつぶれてしまうかもしれない。
稲盛氏が直感的に選んでいた「エフェクチュエーション」という戦略は、決して無鉄砲なだけのものではない。「手持ちの手段で、許容できる損失の範囲内で、小さく早く行動する」という、持たざる者が生き残るための極めて合理的な生存戦略だったのである。







