「汚れた環境がいい」「感染症はむしろ歓迎すべきだ」といった過激な解釈は科学的ではありませんが、自然との多様な接点を失った現代の生活が免疫系の“訓練不足”を招き、その結果としてアレルギーや自己免疫疾患の増加に関与している可能性があるという見解は、多くの研究で示唆されており、専門家の間でも広く議論されています。

 ただし、因果関係についてはなお研究の途上であり、確定的な結論には至っていない点には留意が必要です。

アレルギー疾患が少ないのは
都市部よりも農村部の子ども

 自然=微生物と多様な接点を持つことが免疫の発達に良いという可能性は、直感的にも理解しやすい話かもしれません。

 実際、さまざまな研究が、この「自然との接触」によって免疫系を調節する力がつくことを裏付けています。とくに注目されるのが、子どもが土や草、動物など多様な自然環境に触れることによって、多種多様な微生物に曝露される点です。

 たとえば、スウェーデンの研究では、都市部の子どもと比べて、農村部に住み、牧場に近い環境で育った子どもはアレルギー疾患の有病率が有意に低いことが報告されています(注4)。

 これは、空気中や皮膚、腸内に生息する微生物の多様性が、免疫系にとって重要な「トレーニング刺激」として働いていると考えられています。

 また、実際に自然の中で子どもを遊ばせることが、免疫の働きに良い影響を与える可能性があることも、最近の研究で示されています。

 たとえば、公園や森など、土や植物に触れる環境で過ごした子どもでは、皮膚にすんでいる常在菌のバランスが変化し、都市部の子どもに比べて病原性の少ない菌種が優位となる傾向が報告されています。

 こうした皮膚細菌叢の変化は、皮膚局所の炎症反応を抑えるだけでなく、免疫の過剰な活性化を防ぐ「制御性T細胞(Treg)」の誘導とも関連しており、全身的な免疫応答のバランスに影響を与えると考えられています。

 さらに、この免疫応答のバランスの関係で言えば、ウイルスや細菌の感染に対してはTh1細胞やTh17細胞が、アレルギー反応はTh2細胞が関係していますが、自然との接触が乏しい環境では、このバランスが崩れてTh2細胞が優位になることで、アレルギー疾患が起こりやすくなると考えられています。

(注4)von Mutius, E. (2007) ‘Allergies, infections and the hygiene hypothesis: Theepidemiological evidence’, Immunobiology, 212(6), pp. 433-439. doi: https://doi.org/10.1016/j.imbio.2007.03.002