「頑張りたいのに、体が動かない……」その原因は、あなたの根性不足ではありません。毎日「やらなきゃいけないこと」に追われ、気づけばやる気が枯れ果ててしまっていませんか? 実は、報酬や義務感といった「外からの圧力」は、皮肉にも私たちのやる気を奪う毒になることがあります。心理学の「自己決定理論」を紐解き、あなたの心に再び「自ら燃える火」を灯すための、3つの鍵をご紹介します(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』所収の松尾博一・筑波大学体育系助教のコラムを抜粋したものです)。

「報酬」を気にしすぎる人が、伸び悩むことが多い理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「自分で決めた行動」には力がある

「やれと言われたからやる」「やらないと怒られるからやる」――。
 そんなふうに“外からの圧力”によって動くとき、人は意外にも、やる気が続かなかったり、行動の質が下がったりすることがあります。では逆に、「これは自分で決めたんだ」「やってみたいと思ったからやってる」と思えるとき、なぜ人は頑張れるのでしょうか?

 この問いに答えるのが、エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)」です。この理論の核心は、「人がやる気をもって能動的に行動するためには、“自律性・有能感・関係性”という三つの心理的欲求が満たされている必要がある」という考え方です。SDTでは、私たちが何かをするときの“動機”を、次のように分けています。

●内発的動機づけ(intrinsic motivation):行動そのものが面白い、やっていて楽しいから動く。
●外発的動機づけ(extrinsic motivation):報酬や評価、義務感など、行動の外にある理由で動く。

 たとえば、ピアノを弾くとき――「音楽が好きだから」「気持ちいいから」弾くのは内発的。「先生に言われたから」「発表会のために練習しなきゃ」は外発的。どちらが良い悪いではありませんが、SDTでは「外発的動機も、どれだけ“自分のものとして内面化されているか”で、やる気の質が大きく変わる」と考えます。

 実際の実験でも、それが確認されています。1971年、デシは大学生にパズルを解かせる実験を行いました。片方のグループには「報酬(お金)」を与え、もう一方には何も与えませんでした。すると――報酬をもらった学生たちは、一時的に頑張ったものの、報酬がなくなると、パズルへの関心を急に失ったのです。「やらされている」「外から動かされている」と感じると、もともとの興味ややる気は減ってしまう。これをアンダーマイニング効果と呼びます。

「やってみたい」と思えるには、三つの欲求が必要

 では、どうすれば人は“本気で頑張れる”のでしょうか? SDTによると、そのカギは三つの心理的欲求にあります。

●自律性(autonomy):「自分で選んでいる」「自分の意思で行動している」という感覚
●有能感(competence):「できそう」「成長している」「役に立っている」という感覚
●関係性(relatedness):「誰かとつながっている」「大切にされている」という感覚

 たとえば、ある課題があったとき――「このやり方で試してみてもいい?」と選ばせてもらえたとき(自律性)、「やればやるほど成果が出る」と実感できたとき(有能感)、「見ていてくれる人がいる」と感じられたとき(関係性)、人は自然と頑張ろうと思えます。

 自己決定理論が教えてくれるのは、「人は、“やらなきゃ”ではなく、“やりたい”という感覚で動くときに最も力を発揮する」ということです。もちろん、私たちは日常の中で“本当にやりたいこと”ばかりに取り組めるわけではありません。ですが、「どうせやるなら、こういうやり方でやってみよう」「自分なりに意味を見つけてみよう」という小さな工夫でも、自律性は育まれていきます

 それだけでなく、「その目標が“自分のなかから生まれている”と感じられるかどうか」が、さらに重要だとSDTは教えてくれます。

 誰かに言われたからではなく、自分で選び、自分で意味づけし、自分で取り組んでいる。そんな感覚があるとき、私たちはぐんと強く、能動的に行動できるのです。(筑波大学助教 松尾博一)

(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)

金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。
松尾博一(まつお・ひろかず)
筑波大学体育系助教。コーチング学博士
2012年、筑波大学体育専門学群卒業。2019年、筑波大学人間総合科学研究科博士後期課程コーチング学専攻で学位取得。2020年から現職。元アメリカンフットボール選手。