「結果を出す人」は、何を考えているのか? それを明らかにしたのが、プルデンシャル生命で伝説的な成績を残したビジネスアスリート・金沢景敏さんの最新刊『超☆アスリート思考』です。同書で金沢さんは、五輪柔道3連覇・野村忠宏さん、女子テニス元世界ランキング最高4位・伊達公子さん、元プロ野球選手・古田敦也さん、元女子バドミントン日本代表・潮田玲子さんほか多数のレジェンドアスリートへの取材を通して、パフォーマンスを最大化して、結果を出し続ける人に共通する「思考法」を抽出。「自分の弱さを認める」「前向きに内省する」「コントロールできないことは考えない」「やる気に頼らない」など、ビジネスパーソンもすぐに取り入れることができるように、噛み砕いて解説をしています。今回は、同書に掲載されている松尾博一・筑波大学体育系助教の「目標設定のコツ」をまとめたコラムを転載いたします。

【心理学が証明】実は「悲観的」な人のほうが結果を出しやすい理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「防衛的悲観主義」と「方略的楽観主義」

 試験やプレゼン、本番前になると「失敗したらどうしよう」「頭が真っ白になったら……」と不安になる人がいます。一方で「きっとうまくいくさ」「気楽にやろう」と楽観的な人もいます。

 しかし、興味深いのは、不安を感じている人のほうが、実際にはしっかり準備をし、高い成果を出すことがあるという点です。

 このような心理的傾向を説明するのが、「防衛的悲観主義(Defensive Pessimism)」と「方略的楽観主義(Strategic Optimism)」という二つのスタイルです。

 アメリカの心理学者ノレムとキャンターは、過去に成功した経験があっても「今回もうまくいくとは限らない」と考え、不安をエネルギーに変えて入念に準備をする人々に注目し、「防衛的悲観主義」という概念を提唱しました。

 彼らは最悪のシナリオを想定し、「どこで失敗しそうか」「どんなトラブルが起きるか」を先回りして想像することで、徹底的な準備を行います。その結果、本番に安心して臨み、高いパフォーマンスを発揮できるのです。

 一方で、方略的楽観主義者は「うまくいくだろう」と考え、あまり不安を感じません。過度な準備をせず自然体で本番に臨みますが、それは過去の成功体験や自己効力感に裏付けられた自信があるからです。彼らもまた高い成果を出すことができますが、油断すると準備不足で失敗する可能性もあります。

 重要なのは、それぞれのスタイルに適した対応が必要であるということです。

 たとえば、防衛的悲観主義者に「大丈夫、うまくいくよ」と励ますと、その安心感から準備を怠り、かえって成果が下がることもあるため、励ましが常にプラスに働くとは限らないのです。

「不安のかたち」を知り、自分に合ったスタイルを活かす

 日本の研究でも、防衛的悲観主義者は「表面的な自尊心(顕在的自尊心)は低い」ものの、「心の奥底の自尊心(潜在的自尊心)は高い」という傾向があることが明らかになっています。

「どうせダメだ」と言いながらも、内心では「本気を出せばできる」と信じている。この“裏付けのある不安”が、準備や努力の原動力になっているのです。

 一方、方略的楽観主義者は顕在的・潜在的どちらの自尊心も高く、自分の力を信じてリラックスした状態でタスクに臨めることが強みです。どちらのタイプにも良さがあるため、大切なのは「自分の傾向を理解する」ことです。

 不安を感じやすい人は、その不安を使って徹底的に準備するというスタイルを確立すればよいし、楽観的な人は自然体で自分の強みを信じて行動すればよいのです。

 また、他者と関わる場面では、「不安を感じているからこそ努力している人がいる」「楽観的に見えるけれど、実は努力と実力に裏付けられた確かな自信がある」といった視点をもつことで、より適切な声かけや支援ができるようになるでしょう。

 最後に強調したいのは、「不安は決して悪者ではない」ということです。

 不安は、準備しようとする意欲を生み、行動につながる力にもなります。自分の不安のメカニズムを理解し、それを味方につけられたとき、私たちは最も自分らしいパフォーマンスを発揮できるのです。(筑波大学助教 松尾博一)

(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)

金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。
松尾博一(まつお・ひろかず)
筑波大学体育系助教。コーチング学博士
2012年、筑波大学体育専門学群卒業。2019年、筑波大学人間総合科学研究科博士後期課程コーチング学専攻で学位取得。2020年から現職。元アメリカンフットボール選手。