ところが2003年、映画「ロスト・イン・トランスレーション」(ソフィア・コッポラ監督)のエンドロールで、はっぴいえんどの「風をあつめて」が原曲のまま使われた。アカデミー賞の作品賞にもノミネートされたヒット映画だ。細野さんが歌うぼくの日本語詞が世界中の映画館で流れたのは画期的なことだった。

作詞家・松本隆が50年ぶりにドラムを叩いた夜、武道館で見た“不思議な渦”とは書きかけの…ことばの岸辺で』(松本 隆、朝日新聞出版)
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 今では地球上のいろんなところに、「風をあつめて」を歌える人たちがいる。台北生まれの台湾の高妍さんは「緑の歌 収集群風」というタイトルの漫画を描いた。ヒロインの緑は、「風をあつめて」に導かれるようにさまざまな人や土地と出会いを重ねていく。

 5月下旬に単行本が日台同時発売されたばかりだが、もう日本でも台湾でも重版が決まったそうだ。はっぴいえんどを聴いてみたくなる人、聴き直す人も増えそうだ。欧米で曲がうけるのもうれしいけれど、より感性が近いアジア圏で愛されるのもうれしい。

 1971年、アルバムの1曲として生まれた「風をあつめて」。詞に出てくる「摩天楼」には、前年に完成した東京・浜松町の世界貿易センタービルのイメージも重ねている。そのビルも昨年閉館し、再開発工事が進んでいる。

 時代も常識も変わる。でも、ふとした偶然でできたシングルにもなっていない曲が、時代も常識も超えるスタンダードナンバーになることがある。なぜ「風をあつめて」はそんな生命力を持つことができたのか。その理由は、ぼくには今のところわからないけれど。(2022年6月18日)