応援歌が苦手な作詞家・松本隆が、KinKi Kidsに託した「静かな励ましの曲」の原点Photo:SANKEI

数多の名曲で作詞を担当している松本隆。常に第一線で勝負してきた彼だが、心身に限界を感じて充電に入った期間がある。「がんばれなかった」時間を経験した彼が生み出した、KinKi Kids(現・DOMOTO)の1曲とは?※本稿は、作詞家の松本 隆『書きかけの…ことばの岸辺で』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。なお、初出は『朝日新聞土曜別刷り』に連載している「書きかけの…」に掲載されました。

がんばれない人を癒やす
KinKi Kids「高純度romance」

 KinKi Kidsの新曲「高純度romance」が、ちまたで流れている。このコロナの時代に、聴いた人が元気になれるような曲を、という注文を受けて詞を書いた。でも応援歌は苦手だ。がんばれがんばれと言われても、人間、がんばれないときは、がんばれない。でもそんな人を癒やすような曲なら書ける。そうしてできたのが、この曲だ。

 ぼくにも、もうこれ以上がんばれない、飽和状態で体も心も壊れてしまうと思う時期があった。1989年頃のことだ。筒美京平さんに相談したら、「あんたが休んだら業界の歯車が回らなくなる」と引き止められたが、まあ、そのときはそのときで誰か別の人が出てくるだろうと、無理を承知で休んだ。

 折しもバブル景気の頃。馬車馬のように働いていた時代には見られなかったバレエやオペラのすごい人たちが、世界中から日本に来ていた。見たいと思っていたアーティストの公演はみんな見られた。

 歌舞伎もよく見た。時間の流れ方が、まるで江戸時代。たとえば忠臣蔵のような通し狂言の場合、午前中に始まって終演は夜の9時過ぎになる。