『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回の記事では、成績が伸びる子の家庭がやっていることについて、孫氏と『5科目50年分10000問を分析した東大生の テストテクニック大全』著者の西岡一誠氏の特別対談をお送りします。
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勉強を教える前に親ができること
西岡壱誠氏(以下、西岡氏) 孫さんの『12歳から始める本当に頭のいい子の育て方』を読みましたが、やはり子どもの成長のためには一般入試か総合型選抜かに関係なく、“親の力”が大事だと感じました。勉強を教えるかどうか以前に、日常の関わり方が効いてくるというか。やっぱり問いかけが大事ですよね。
孫辰洋氏(以下、孫氏) 問いかけは、特に重要だと思います。というのも、親ができることって、実は“知識を授けること”よりも、“考える回路を作ること”なんですよね。よく勘違いされるのが、『問いかけるなら親は答えを知っていないといけない』という思い込みです。でも、別に親が正解を持っている必要はないんですよ。ちょっとしたトークで十分です。
西岡氏 それ、めちゃくちゃ分かります。親が“教える立場”に立ちすぎると、子どもが萎縮しちゃうんですよね。『間違えたら怒られる』『正解を言わなきゃ』みたいになって、思考が止まる。
孫氏 そうなんです。子どもって、親が正解を持っていると感じた瞬間に、無意識に“試験モード”に入っちゃうんです。そうなると、問いかけが“対話”じゃなくて“採点”になります。家庭が小さな面接会場みたいになってしまう。これは本当に危険で、子どもが自分の言葉で考えることをやめてしまいます。
西岡氏 親側も『ちゃんと導かなきゃ』って思うから、つい正しいことを言いたくなる。しかも高学歴の親ほど“成功体験”が強いから、『自分のやり方が正しい』になりやすい。結果、『ああしなさい』『こうしなさい』が増えて、子どもの主体性を削ってしまう……って、まさに本で言っていた話ですね。
親の役割はティーチングではなく……
孫氏 ええ。面白いのは、東大生や難関大合格者に聞いても、『親が熱心に勉強を教えてくれたから受かった』って答える人がほとんどいないことなんです。塾や学校の先生に任せる部分は任せている。でも、その代わり家庭では、答えを与えるより“問い”で伴走している。ここに共通点があるんですよね。
西岡氏 なるほど。つまり親の役割は、ティーチングじゃなくてコーチングだと。
孫氏 まさにそれです。よく例え話で、『飢えた人に魚をあげるか、釣り方を教えるか』ってありますよね。短期的には魚を渡したほうが助かる。でも、それを繰り返すと“釣ってもらう構造”ができてしまう。子育ても同じで、『答えを教えてあげる』って、今この瞬間はラクなんです。点数も一時的には上がるかもしれない。でも、子どもが“自分で釣る力”を身につけないまま大きくなってしまうと、親がいない場面で詰むんですよね。
西岡氏 そういう意味では、令和の社会って、“正解を覚えて正解通りに動く人”が強い時代じゃなくなりましたよね。AIも出てきて、働き方も変わって、何が正解か分からない。だから“考える力”が重要になる。教育もそこに引っ張られて、推薦や総合型が増えてきたわけで。
孫氏 そうです。いまの社会は、誰も正解を持っていない前提で進んでいく。だから『答えを教えられる人』よりも、『問いを立てられる人』のほうが価値が出る。入試も同じで、総合型選抜や学校推薦型選抜では、知識量以上に『なぜそれをやるのか』『どんな経験をどう意味づけたのか』が問われます。つまり、“自分の頭で考える訓練”が、点数以上に効いてくるんです。
西岡氏 時代に求められているわけですね。
中高では学力が芳しくなく、2浪という厳しい状況の中で、自分自身の学びを徹底的に見直し、独自の勉強法を確立。これにより偏差値35から偏差値70まで成績を伸ばし、東京大学に合格を果たす。この経験をもとに、学びに悩む学生たちに希望を届ける活動を展開中。『東大読書』(2018年、東洋経済新報社)など、勉強法や思考法の研究と実践に基づいた著書はベストセラーとなり、多くの受験生や教育者から支持を集めている。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』に関連する対談記事です)




