目立たない形で、今日もそれらの商品が、皆さんのもとに届いています。

 カカオ事業部自体も、最初は目立たない部署でした。明治製菓が創業83年目にして、初めて原料に進出……と言うと一見「肝煎り」のようですが、実際はその逆でした。

 充てられた予算は僅少、集められたメンバーの年齢層も高め。私は38歳の課長として、モチベーション低めの年上メンバーを束ねることになりました。

成功例は、ほぼゼロ…
明治製菓は新規事業が苦手

「カカオ事業部」の設立には、「それなりの」背景がありました。

 チョコレート業界には、「商品(最終製品)」と「原料(バルク)」の2本柱があります。

 明商(編集部注/著者が新卒で明治製菓に入社し、最初に配属になった同社の子会社。現・明治フードマテリア)でバルク事業を経験した私は、ここで取引されるカカオが、業界の勢力分布に大きな影響を与えることを知っていました。

 会社もそこに着目したのでしょう。明治製菓は前者では胸を張れるが、後者が弱い。子会社の明商で小さく展開するだけでは物足りない。ここを開拓してこそ日本一のチョコレートメーカーになれる、と。これが第一の動機でした。

 理由はもうひとつあります。

 チョコレート製品には、「夏に売れなくなる」という弱みがあります。工場は冬場ばかり忙しく、夏場はラインが動かずヒマを持て余します。農繁期と農閑期のようなこの状況は、どう考えても非効率。新規事業が成功すれば「農閑期」も稼働できるはずだ、というわけです。

 理にかなった考え方です。……ただしあくまで、「成功すれば」です。

 社員なら誰もが知る、残念な事実があります。明治製菓は新規事業が大の苦手なのです。99年時点で、成功例はほとんどありませんでした。

 たとえば、80年代に立ち上げた中華レストラン事業。当時食品業界を席巻した多角化ブームに乗った形ですが、まったく繁盛せず。夜に銀座本店に行くと、客は私も含めて全テーブルが接待をしている自社の営業社員。「ここは社員食堂か」と思いました。