「働き続ける」は選択肢か強制か

 日本では高齢者の就業率が非常に高い。総務省によると24年時点で65歳以上の25.2%が就業しています。一方、ドイツではわずか8.9%です。これは、働かざるを得ないという側面に加えて、文化的価値観も後押ししていると感じます。

 また別の筆者の日本人の友人の話です。彼の父親が、75歳を過ぎても事業を譲ろうとしたがらないそうです。仕事に人生を捧げてきた父親は、土日を続けて家で過ごすこともほとんどないのだとか。

 現役を引退し、家庭の中で居場所が見つからないことで「濡れ落ち葉」になるのが怖いのかもしれません。もしくは、収入が年金だけになることで「定年離婚」されるのを恐れているのかもしれません。いずれにせよ、彼にとって隠居生活は魅力的ではないようです。

退職は「自分へのご褒美」のドイツ

 ドイツの年金制度は、加入期間や退職時期を選ぶことができます。35年加入で減額あり退職、45年加入で全額支給されるなど。さらには「高齢者時短就労契約(Altersteilzeit)」という半分働き半分年金を受け取ることで、定年へ段階的に移行するなど、さまざまな仕組みがあります。定年後も働けば年金は増えるし、早く退職すれば減るのは日本と同じ仕組みです。

 ただし日本と決定的に違うのは、「自分はもう十分働いた。だから引退するのは当然だ」という「権利の意識」が強いことです。

 筆者のドイツ人の知人の母親は、60歳の時に「35年加入で減額あり」の退職を選択しました。夫に先立たれ独り暮らしとなった母親に、子どもたちは「何かしたら?」と勧めたそうです。

 しかし母親は、「35年もフルタイムで働き、子どもを2人育て、夫も看取った。ボランティアもしたし、副業までした。誰かのために働くのはもう十分!」。そう言い切って、彼女は“何もしないという贅沢”(das süße Nichtstun)を10年近く楽しんでいるそうです。