「仕事ができる人」になりたいと、多くのビジネスパーソンが願う。しかし、知識やノウハウを身につけたからといって、そうなれるとは限らないのが難しいところ。実際には、「仕事ができる」ためには総合的な能力が求められてくるからだ。そのスキルを言語化して豊富な実例とともに解説、ロングセラーになっているのが『Deep Skill ディープ・スキル』だ。「人と組織を巧みに動かす深くてさりげない技術」とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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「仕事ができる人」の力を言語化した
「仕事ができる人」になりたいと考えているビジネスパーソンは少なくないだろう。今や手軽にさまざまな「学び」へアクセスができるようになり、勉強熱はますます高まっている。
だが、知識やノウハウを手に入れることができれば、即「仕事ができる人」になれるのかというと、必ずしもそうではない。このことに気づいている人は少なくないのではないか。
必要なことは、知識やノウハウを活用しながら、具体的に仕事をぐいぐいと前に動かしていく実行力だ。
では、そのためには何が必要になるのだろうか? これを具体的に語ることができる人はあまりいないかもしれない。
その力を「ディープ・スキル」と名づけたのが、本書の著者、石川明氏だ。リクルートで新規事業に幅広く携わり、のちに総合情報サイト「オールアバウト」社で活躍。
2010年からは、企業における社内起業をサポートすることに特化したコンサルタントとして独立し、大手企業を中心に、新規事業の創出、新規事業を生み出す社内の仕組み作りを支援してきた。著者は100社、2000案件、4000人以上の企業人と関わり、人や組織を巧みに動かす力について理解を深めていった。
本書では、人と組織を巧みに動かす21の技術について解説が行われていくが、ビジネスパーソンがついつい陥ってしまいそうなドキリとするワードも並んでいる。
例えば、ディープ・スキル07に記されているのは、”「専門性の罠」に陥ってはならない”。サブフレーズは”「普通の人」の「普通の気持ち」を持ち続ける”だ。
専門性を見極め、それを高めることは大事なこと。実際、多くのビジネスパーソンが、ビジネス書で学んだり、ビジネススクールに通ったりして、専門性を高めようと研鑽に励んでいる。
それこそが「ディープ・スキル」になるのかと思いきや、むしろ逆になりかねないというのである。
ビジネスの目的は、「世の中の“不”の解消」
専門性の罠を考えるためには、根源的な問題に向き合う必要がある、と著者は記す。「そもそも、ビジネスとは何か?」という問題である。
さまざまな見方があるが、著者はこう定義する。「ビジネスとは“不”の解消である」。
世の中には、さまざまな「不」が存在する。不平、不満、不安、不幸、不良、不遇、不足、不自由、不平等などなど。製品やサービスを提供することを通して、これらの「不」を解消することこそがビジネスの「本質」だというのだ。
あの大ヒットビジネスも、こう解釈できる。
大人気のカフェチェーン、スターバックスも同様だと記す。
コーヒーショップという低成長市場において、「『第三の空間』を提供する」というミッションのもと、「落ち着いて時間を過ごせる場所が街中に少ない」「清潔で一人でもくつろげる場所が少ない」といった「不快」を解消したのだ。
世の中で成功しているビジネスを一つひとつ検証すれば、必ず「なんらかの“不”を解消する」ことによって成立することがわかるという。
だから著者は近年、ヒットするビジネスについて「ビジネスモデル」の分析に偏重しがちであることに違和感を持ってきたと記す。
ビジネスモデルとは、「事業として成立させるための手段」であってビジネスの目的ではない。ビジネスの目的は、あくまでも「世の中の“不”の解消」。
「世の中の“不”を解消」するための方法について試行錯誤を重ねるなかで、結果としてビジネスモデルが生み出されているに過ぎないというのである。
「どんな人が」「どんな場面で」「どんな“不”を感じているか」に思いを馳せ、「どうすれば、その“不”を解消できるか」を考え抜く。その「不」が的を射たものであれば、必ず興味を示すユーザーは現れます。(P.98)
そのユーザーの反応を見ながら、ビジネスの形に修正を加え続けることによって、結果として、その企業にとって最適な「ビジネスモデル」は生み出される。
つまり、すべては「人はどんな“不”を抱えているか?」をつかみ取ることから始まるというのだ。
最も根源的な能力は「人の気持ちを慮る」こと
人の“不”をつかみ取るには、何が必要なのか。人の気持ちに思いを寄せ、深く洞察し、心の微細な襞までも理解することができなければならない、と著者は記す。ビジネスパーソンに求められている最も根源的な能力は、「人の気持ちを慮る」ということだ、と。
お客様の「不」を解消するためには、私たちビジネスパーソンは、それぞれの“持ち場”で専門性を高める必要がありますが、その結果、「お客さま=普通の人々」から遊離した存在になってしまうことがあるのです。(P.99)
業界では当たり前のことが、一般の普通の人々にとっては当たり前ではない、というケースは珍しくない。専門的な学びを深めた人にとっては当然、知っているべきことを、一般の人々は知らないということも起こりうる。
その世界で“当たり前”が進めば進むほど、普通の人々にとっては難しいということがわからなくなってしまうのだ。その結果、普通の人々にとって、なんとも使いづらい、ピント外れのサービスが生まれてしまったりすることがあるのである。
また、マーケティングの専門家となれば、競合他社との差別化に目が向かうかもしれない。だから、他社製品には備わっていない機能を付け加えるべきだ、となる。しかし、このとき見ているのは、「お客さま」ではなく「他社製品」なのである。結果的に、ユーザーの「心」に響かない商品を生み出してしまいかねないのだ。
というのは、「専門性」をもつ者同士、同質的なコミュニティを形成する傾向が強いからです。実際、ビジネスパーソンとしてのキャリアを積むほどに、(中略)同業種・同職種の人たちとの交友関係が深まっていく人が多いのではないでしょうか?(P.100)
「専門性」を磨く努力は大切だが、こうした「落とし穴」にはまらないよう注意をしなければならない。そうでなければ、「専門性」は宝の持ち腐れになるばかりか、時にビジネスを台無しにする原因にすらなりかねないというのである。
では、どうすればいいか。ユーザーと直接、触れ合う機会を持つことだ。
しかし、もっと大事なことが2つある、と記す。「普通の生活」を味わうこと。そして、できるだけ多様な人々と接すること。実はそれが、ビジネスに生きる「ディープ・スキル」につながるというのである。
「ディープ・スキル」は、意外に身近なところでも磨けるのである。
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』(日経ビジネス人文庫)、『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。



