『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語るのは、推薦入試専門塾リザプロ代表で本書の著者の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回の記事では、帰国子女の入試枠が減ってきている問題について、孫氏と、学歴研究家・じゅそうけん氏の特別対談をお送りします。
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帰国子女枠の入試が減っている
じゅそうけん氏 今日は帰国子女入試について、少し踏み込んだ話をしたいと思います。最近、早稲田大学や慶應義塾大学で、帰国子女入試の枠を縮小したり、形を変えたりする動きが目立っていますよね。
孫辰洋氏(以下、孫氏) そうですね。整理すると、早稲田大学は、2024年度入試を最後に複数学部共通の帰国子女入試が停止され、2025年度以降は多くの学部で一般選抜や総合型選抜(旧AO入試)へ再編されています。教育学部など一部を除き、従来の“帰国生枠”が事実上なくなる形です。慶應義塾大学でも文学部・商学部・看護医療学部・薬学部が2025年度入試から帰国生対象入試を停止し、さらにSFC(総合政策学部・環境情報学部)については2026年度入試をもって帰国生入試を終了する予定と報じられており、帰国子女向けの専用ルートが縮小・廃止されつつあります。
じゅそうけん氏 ありがとうございます。この流れって、孫さんはどのように見ていらっしゃいますか?
孫氏 そうですね。結論から言うと、僕はこの流れ自体は“健全”だと思っています。帰国子女入試が縮小されるのは、帰国子女が冷遇されているからではなく、『英語ができるだけ』では通用しなくなってきたということの表れなんです。
じゅそうけん氏 僕自身、早稲田にいたので実感がありますけど、帰国子女ってかなり二極化していました。めちゃくちゃ優秀な人は本当に優秀で、外資系銀行とかコンサルにスッと行く。でも一方で、日本社会にうまく適応できず、就活で苦労する人も少なくなかった。
孫氏 まさにそこです。帰国子女入試の問題点は、能力のばらつきがあまりにも大きかったことなんですよね。極端な言い方をすると、“英語ができるだけで中身が伴っていない帰国子女”も、制度上は拾えてしまっていた。大学としては、そこを見直したいというのが本音だと思います。
“エセ帰国子女”問題
じゅそうけん氏 よく聞くのが“エセ帰国子女”問題ですよね。海外に住んでいたけれど、日本人学校に通っていて、英語も現地語も身についていない、みたいな。
孫氏 はい。これはかなり深刻です。「海外にいた=国際的」ではまったくない。日本人学校で日本語だけ、家庭では日本語、外の世界とほぼ接点なし、というケースもあります。それで帰国子女枠を使おうとすると、大学側としては「本当にこの人をグローバル人材として評価していいのか?」という疑問が出るのは当然です。
じゅそうけん氏 しかも、英語教育自体は日本国内でもかなり進んできましたよね。昔ほど“英語ができるだけで希少”ではなくなっている。
孫氏 そこも大きいです。今は国内の進学校でも、英検準1級や1級レベルの生徒は珍しくありません。リスニングやリーディングも、共通テストベースでしっかり鍛えられている。そうなると、帰国子女の“英語だけアドバンテージ”は相対的にどんどん薄くなっていくんです。
じゅそうけん氏 帰国子女であること自体が、武器じゃなくなってきている。
孫氏 そうです。だから大学は、『英語+何か』を見たい。学術的な思考力、探究の深さ、日本語での論理力、文化的な理解力。そこまで含めて評価したい。その結果として、帰国子女入試の枠を見直している、と見るのが自然です。
帰国子女の中でも別格の学生がいる
じゅそうけん氏 一方で、帰国子女でも“強い人”は本当に強いですよね。伊藤の周りでも、上澄み層は別格でした。
孫氏 そうなんです。帰国子女が不利になっているわけではなく、むしろ“本物”しか残らなくなってきている。最近、僕のところに来る生徒も変わってきました。昔は「学力的に厳しいから推薦で」という相談が多かった。でも今は「鉄緑会とうち兼任です」みたいな、学力的にもトップ層の子が普通に来るようになっています。
じゅそうけん氏 推薦=逃げ道、じゃなくなっている。
孫氏 完全に違います。推薦や総合型選抜は、“別ルートのエリート選抜”に近づいています。その中で、帰国子女も同じ土俵に上がってきている。だから中途半端な状態では、むしろ不利になる。
海外駐在が決まったらどうするべき?
じゅそうけん氏 じゃあ親としては、海外駐在が決まったとき、どう考えるべきなんでしょう。「帰国子女枠があるから安心」とは言えないわけですよね。
孫氏 言えません。むしろ危険です。大事なのは、“どんな環境で、どんな言語体験を積むか”です。僕がよく言うのは、完全にグローバルな環境+日本語のサードコミュニティを両立させてほしい、ということです。
じゅそうけん氏 サードコミュニティ?
孫氏 学校でも家庭でもない、日本語に触れる第三の場です。たとえば、日本語の本や漫画、アニメ、家庭内での日本語会話。日本に戻る予定があるなら、これは必須です。ダブルリミテッドといって、英語も日本語も中途半端という状態が一番危険になってしまうので。
じゅそうけん氏 なるほど。英語も日本語も、どちらも“ネイティブっぽいけど弱い”みたいな状態ですね。
孫氏 そういう人、実は多いです。だから僕は、“言語ごとに、めちゃくちゃ好きなコンテンツを一つ持て”とよく言っています。言語は、テストじゃなくて愛着で伸びる。僕自身も、日本語は『SLAM DUNK』(スラムダンク)、中国語は『三国志』、英語は『ビッグバン・セオリー』でした。
じゅそうけん氏 なるほど。好きだから触れる、触れるから強くなる。
孫氏 そうです。帰国子女教育で一番やってはいけないのは、『とりあえず英語環境に放り込めばいい』という雑な設計です。むしろ今後は、帰国子女であることをどう“付加価値”に変えるかが問われます。
じゅそうけん氏 まとめると、帰国子女入試枠の縮小は、悲観する話ではない、と?
孫氏 はい。むしろ、親が現実を直視するチャンスです。帰国子女だから有利、ではなく、海外経験をどう中身のある学びに変えるか。そこまで設計できた家庭の子は、これからも普通に評価されます。逆に言えば、それができていないと、制度があっても通用しなくなる。それだけの話です。
じゅそうけん氏 親にとっては耳が痛いけど、重要な話ですね。
孫氏 だからこそ、今のうちに考えてほしい。帰国子女入試は“保険”ではありません。“成果発表の場”です。その前提を持てるかどうかで、進路は大きく変わると思います。
受験総合研究所、略して「じゅそうけん」の名前で活動する学歴研究家。本名は伊藤滉一郎。じゅそうけん合同会社代表。X(旧Twitter)をはじめとするSNSコンサルティングサービスも展開する。早稲田大学を卒業後、大手金融機関に就職。その後、人生をかけて学歴と向き合うことを決意し退職。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、X(旧Twitter)やYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』に関連する対談記事です)




