そこからはいきなり霊園を外れて細い切り通しを行く。通行人はほとんどなく、冷たい風が吹き抜ける。見通しが悪いからカーブにミラーが設置されているが、手入れされてなくて曇っている。

「のぞくと老人になった自分の姿が見えますよ」

 Mさんを怖がらせるつもりで言っておいて、自分のほうが鏡を見るのがこわくなった。

 ここをこえるといきなりバス通りに出る。この通りは、あたりで一等賑やかな武蔵溝ノ口駅と溝の口駅へとつづいている。この通りをひたすら溝ノ口とは逆方向に歩く。霊園ではあんなに饒舌だった私とMさんだったが、いきなり還俗した途端口数が減った。

 だが、ここからがそこそこの道のりなのである。するとMさんいきなり日傘をさして歩き出した。夏の日差しを避けるには合理的なのだがパナマ帽、アロハに黒いサングラス姿の怪人度は一級である。

 このバス通りは平坦で肉体的にはきつくない。しかし、家と車とアスファルトだけの景色は単調至極。2人はまた無言になった。無言になって5分。暖簾が見えてくる。

「着きましたね」

「ええ、着きました」

漂流してたどり着いた島で
先にいた仲間と乾杯

 疲れきって英語教科書のジャックアンドベティみたいな会話をかわした私たちが対峙したのは、『和風創作new居酒屋Takane』の看板だった。看板の表記は難しいが暖簾には『割烹高根』とある。そして常連さんたちも高根と呼んでいる。

 一見、洒落た一軒家。だが暖簾をくぐって格子戸をあけると、左手に美しいカウンター、右手に小上がりという素晴らしい酒場が現れる。カウンターの奥には大将がいて、

「いらっしゃい」

 と気持ちのいい声で招いてくれる。店名が高根だからてっきり高根さんだと思っていたら坂野洋さんというお名前であった。高根はこのあたりの地名なのである。

 小上がりには呑みっぷりのよさそうな常連客が先にいらして、口開けからさほど時間が経っていないのに店の空気は存分に温まっている。カウンターに腰掛けると背後から、

「ジャンプさん?」