大分市に暮らす亜由美さんの夫淳也さんは造船工程の1つ、船の様々な設備を取り付ける艤装(ぎそう)会社を営んでいた。2019年9月、夫はいつものように出勤し、仕事場で事故に遭った。鉄製の部品のつり上げ作業中、それがバランスを崩して頭上に落ちたという。

 病院に駆けつけると、横たわった体の青白い足だけが見えた。すべてを悟った瞬間、暗転。亜由美さんはショックのあまり倒れた。

 真っ白い布に包まれた夫が安置室に戻ってきて、看護師から結婚指輪を渡された。看護師は泣きながら「これは燃やせないの。あなたがちゃんと持っていてあげて」と言った。その涙を見て実感した。本当に帰らぬ人になったんだ。夫は38歳だった。

 結婚経験がある者同士、2013年に出会った。亜由美さんの以前の結婚生活の苦労や事情をよく理解してくれ、3人の子どもと一緒に暮らそうと言ってくれた。翌年に結婚。その後4人目の子も生まれ、夫は分けへだてなくかわいがった。4人も「父ちゃん」のことが大好きだった。

 夫と最後に話したのは事故の前夜。タオルケットをかけてくれて「おやすみ」と。

 なぜ、夫はこんな事故に遭って死ななければならなかったのか。悲しみと怒りで混乱し続けた。

 亡くなって2週間後の早朝だった。目が覚め、水を飲みに2階の寝室から1階へ。日課の体重をはかろうと、下着1枚になって体重計にのった。すると突然、目の前のテレビがついた。

 え!だれが電源を入れたの。驚いて震えた。でも思った。「ぼくはここにいるよ。ママ、服を脱いでも体重はそう変わらんよ」。そう言ってくれたような気がして、涙が止まらなかった。夫はそばで見守ってくれているんだと。

寂しさを紛らわすためには
仕事に精を出すしかない

 翌月、亜由美さんは夫の仕事場に立った。2代目として会社経営を継ごう。20人の従業員を守ろう。決心した。作業着にヘルメット、夫がしていた安全帯を胴回りに着けた。

 造船業の現場に足を踏み入れた。200トンのクレーンが始終動き、「落ちるな危険」の看板がいたるところにある。夫は私たちのために命をかけて働いてくれとったんや――。初めて気づいた。