リーダーシップについて理解するためには、リーダーシップではないものを知ると良い。リーダーシップの定義や構造など、リーダーシップとは何か、その本質について取り上げてきました。第6回は視点を変え、「リーダーシップではないもの」について、神戸大学大学院教授で経営組織論、組織行動論を専門とする鈴木竜太氏が解説します。本記事は、書籍『リーダーシップの科学』の第1章を一部抜粋・編集したものです。

【リーダーシップ集中講義:第6回】会議・イベント・調整ばかり…部下と向き合わない“忙しい上司”にリーダーシップは宿らないPhoto: Adobe Stock

リーダーシップではないもの

 リーダーシップとは何かを第1回から探ってきた。今回は、リーダーシップの外側にあるものについて触れていきたい。少し不可思議かもしれないが、リーダーシップを理解するためには、リーダーシップの外側、つまりリーダーシップが扱わないことを考える必要がある

 その理由の一つは、そうでないものを理解することで、よりリーダーシップとは何かということが鮮明になるからである。

 そしてもう一つは、実際には良きリーダーシップは、フォロワーに対してだけではなく、それ以外の活動や行動を含めることで、より良い成果につながるからだ。まずは、リーダー行動について考えていこう。

リーダーシップ行動とリーダー行動

 リーダーシップは集団の業績の達成をフォロワーに促すプロセスである。狭い観点から見れば、リーダーによる働きかけのうち、フォロワーの業績達成に関わる行動へのモチベーションを喚起する点で、リーダーシップは発現することになる(図)。つまり、リーダー行動と部下のモチベーションが重なるところが、リーダーシップ現象と捉えられる

【リーダーシップ集中講義:第6回】会議・イベント・調整ばかり…部下と向き合わない“忙しい上司”にリーダーシップは宿らない鈴木竜太『リーダーシップの科学』(ダイヤモンド社、2025年)p.39を引用

 一方で、実際のマネジャーなどの組織の中のリーダーは、フォロワーのモチベーションを上げる役割だけではない。例えば、会議へ出て自部署や自組織の代表として発言することや全社の方針の伝達や新しい戦略をメンバーに説明することなども求められる。このような管理者として求められる行動を管理者行動と呼ぶ。

 つまり、フォロワーに対する働きかけ以外の行動も、実際の管理者には求められているのだ。

 しかし、このような行動は一概にリーダーシップの外側にあるものだと考えて良いだろうか。神戸大学の金井壽宏によれば、リーダー行動は管理者行動の一つであることから、実際は、リーダー行動が管理者行動に含まれると言える。

 一方、フォロワーについて考えれば、フォロワーの行動の中で、集団業績につながるものはモチベーションだけとは限らない。部下の有能感や自信、職場自体の活性化などもフォロワーを促す集団の業績に関わる部分である。

 このことを踏まえれば、フォロワーに対して意図を持って行動をしていなくとも、自身の行動や振る舞いが、フォロワーのモチベーションに影響を与えることもある。また、有能感や自信、あるいは職場の雰囲気を良くするといったことから集団業績に寄与することもある。その点で、現実的なリーダーシップ現象は前述の図の右側の世界に近い。

 このように考える意味は、2つある。一つは金井も示唆するように、リーダーシップを発揮しようとして試みる行動や振る舞いだけが、リーダーシップを発現させるわけではないということである。

 リーダーのちょっとした表情やフォロワーに対してではない行動であっても、フォロワーに影響を与えることは多い。例えば、リーダーがより上位者に対して自部署のがんばりを伝えてくれることや予算を取ってきてくれるといったことは、フォロワーのモチベーションにもつながることは容易に想像できる。

 もう一つは、実際のリーダーやマネジャーは、リーダーシップに関わることだけをしているわけではないということである。もちろん先に述べたように、それらの行動が間接的にリーダーシップとして発動することはあるだろう。

 しかし、図で示すように、本質的にはリーダー行動とフォロワーのモチベーションの交差部分、つまりは対フォロワーへの働きかけが、リーダーシップ現象の所在である。すると、ここに時間を掛けることがより良いリーダーシップの発揮につながる。そのため、他の役割をはたすことで、この本質的なリーダーシップへの行動が少なくなってしまうことは、リーダーシップを発揮する上では危惧すべき状況だ。

 近年、本社の会議へ出席することや、儀礼的なイベントに参加すること、あるいは他部門からのリクエストへの対応といったことで、マネジャーの時間がむやみに奪われることがよく観察される。もちろんそれは何かしらの意味があっての活動であることは間違いないが、マネジャーも含め、それによって部下を見る時間が減り、良質のマネジメントがしづらくなることも忘れてはならない。

 親が子どもと接する時間が良好な親子関係を形成する大きな部分であると同様に、リーダーがフォロワーと接する時間は(原則的には)多いほど良い上司-部下関係を形成し、より優れたリーダーシップの発揮につながるのである。

(本記事は、書籍『リーダーシップの科学の第1章を一部抜粋・編集したものです)