過去の成功体験は、ときにリーダーの判断を鈍らせる。「あのやり方でうまくいった」「自分はこれで成果を出してきた」――そうした経験が、変化する現場への適応を妨げることも少なくない。神戸大・鈴木竜太教授が『リーダーシップの科学』で提案するのは、経験を「編みなおす」という発想だ。そこには、実力だと思っていた成果を「運がよかった経験」として相対化し、次に活かすための視点がある。なぜ今、経験を編みなおす必要があるのか――ヤフーの人事担当役員を歴任し、『増補改訂版 ヤフーの1on1』の著者でもある本間浩輔氏との対話から、その意味を掘り下げる。

「なぜかうまくいくリーダー」は“運”も味方にできる。その方法とは?Photo: Adobe Stock

「運がよかった経験」も
編みなおす

本間浩輔(以下、本間):この本には「アンラーン(学習棄却)」ってあんまり書かれていないですね。

鈴木竜太(以下、鈴木):たしかに書いてないですね。アンラーンについて僕が好きなのは「編みなおす」って考え方なんですね。自分の経験とかそういうものを「編みなおす」。ビジネスパーソンだと「棚卸し」と言われたりするけど、それに近いのかもしれない。

 これまでの考え方を「捨てろ」と言っているわけじゃなくて、もう一度平場に置いて自分に合うように、あるいは状況に合うように、編みなおすのがすごく大事なわけです。ただ、その経験を「置いておく場所」がないんです。なので、「リーダーシップってこう考えられるから、その枠組みの中に自分の経験とかを今一度収めていけば、強い経験も相対化されるでしょう」と言うつもりで新刊を書きました。

 だから、「自分の考えと同じだな」とか、「ちょっと違うこともあるし、こういうところはあんまり考えてなかったな」みたいなことが見えてきたら、情報として経験をもう一度編みなおせばいいとは思うんです。それがある種の「今一度それを使う」ということになるので。