「知識量=価値」だと信じていた頃の失敗
私自身もかつて、この「全部話す病」の重症患者でした。
私は予備校講師としてキャリアをスタートさせました。当時はまだ若く、「生徒に舐められたくない」「すごい先生だと思われたい」という承認欲求の塊でした。だからこそ、授業では自分の持っている知識をこれでもかと詰め込みました。「この公式の背景にはこんな歴史があって……」「実はこんな例外パターンもあって……」。
私は、情報量の多さこそが講師の価値であり、生徒へのサービスだと思っていたのです。
しかし、結果は惨敗でした。
生徒たちの反応は鈍く、アンケートの評価も芳しくない。「先生の話は難しい」「どこが重要かわからない」。そんな声が突き刺さりました。良かれと思って詰め込んだ知識が、逆に生徒の理解を阻害していたのです。
そんな壁にぶち当たっていたある日、当時駿台予備学校で「伝説」と呼ばれていた恩師、三國均先生の言葉に出合いました。
「何を話すかよりも、何を話さないかを決めることのほうが、ずっと重要だよ」
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。
私はそれまで、情報を「足す」ことばかり考えていました。しかし、プロフェッショナルとは、勇気を持って情報を「引く」ことができる人だったのです。
この「引き算の思考」を手に入れてから、私の授業は劇的に変わりました。そしてこれは、ビジネスにおける「説明」でも全く同じことが言えるのです。
相手のワーキングメモリは思っているよりだいぶ小さい
では、具体的にどうすれば「説明がうまい人」になれるのでしょうか。
重要なのは、認知心理学でいう「ワーキングメモリ(作業記憶)」の限界を理解することです。
相手の頭の中にある「情報を受け入れるためのコップ」を想像してみてください。このコップは、あなたが思っているよりもずっと小さいものです。







