フジクラの前回バブルは「深川に土地があるから」
今回は「利益が2000億円弱に急増したから」

――足元の株価急騰はどう見ていますか?

清水 過剰流動性が株価を押し上げている点は同じです。ただし、前回(1980年代のバブル)が「あの工場の土地を売れば数百億円になる」といった思惑だけで急騰したのに対して、今回は「実体」を伴っています。

 例えばここ3年で株価が約20倍に値上がりした電線大手のフジクラ(5803)。実はフジクラは80年代バブルの時も急騰していました(当時の社名は藤倉電線)。東京都江東区の深川(木場)に広大な工場があり、「土地持ち企業」という理由だけで人気化したんです。

 しかし、足元の株価急騰の背景は、AI用のデータセンター建設で電線の需要が急増したことで、利益も急増していることです。今後もデータセンターの建設ラッシュに伴う電線の需要は続くと見られ、株価は高値を維持しています。

 フジクラ同様に日経平均株価を牽引している東京エレクトロン(8035)もアドバンテスト(6857)も、米国株のエヌビディア(NVDA)も実際に足元では利益が爆発的に伸びています。ただし、「先を読みすぎている」という点ではバブル的だと思います。来期どころか、10年先も高成長が続くという前提で今の株価がついている。どこかで成長が鈍化した瞬間に、その期待という名の「泡」が弾けるリスクは常にあります。

指標で見る「異常さ」の比較
日経平均PERが60倍の時代

――データの面でも比較してみましょう。1989年末のバブル絶頂期、日経平均のPER(株価収益率)は約60倍に達していました。現在は16倍〜17倍程度です。当時は単独PER、現在は連結PERの違いはありますが、この差をどう捉えますか。

清水 80年代末はもはや指標が意味をなさない狂乱状態でした。PER30倍で「安すぎる」と言われ、不動産を保有する企業なら100倍でも平気で買われていた。土地の含み益を考慮した「Qレシオ(時価総額/実質純資産)」のような新しい指標を生み出して、高すぎる株価を正当化しようと必死でしたね。今のPER16倍程度というのは、歴史的な平均値から見れば「バブルだ!」と騒ぐほどの割高感はありません。

――指標の上では健全?

清水 いいえ、今も昔と変わらず指数の「歪み」は激しいと見ています。現在の日経平均の上昇は、特定のハイテク銘柄の寄与度が極端に高い。日経平均株価の上昇の半分近くをアドバンテストとソフトバンクグループ(9984)など特定の数社だけで説明できる時期もありました。

 実は80年代末も、土地をたくさん保有していてるだけで浮動株が少ない松竹(9601)や片倉工業(3001)などが指数先物の売買によって吊り上げられ、「特定銘柄が作った日経平均バブル」の側面がありました。指数の数字だけを見て「日本経済が調子いい」などと判断するのは危険です。

かつての 「浮かれモード」はないが
若者のFIRE願望はバブル的

――世相の違いについても伺いたいのですが、80年代は銀座でタクシーがつかまらず、一万円札を振って止める人がいたといったバブルの伝説はいくつもありました。

清水 あれは本当ですよ(笑)。今と当時の違いは給料もバブルだったこと。証券会社ならボーナスで200万円、300万円が20代社員にも普通に出ていた。「証券会社の一般職の新人女性のボーナスが、お父さんのボーナスより数倍多かった」なんて話も。

 接待もすごかった。当時は外資系証券にいましたが、接待費として月に50万円程度しか使わないと「お前、サボっているのか。もっと金を使って顧客に食い込め」と怒られました。盆暮れになると、銀座のお姉さんやママたちが会社に列をなして挨拶に来る。お客さんも気前がよく、お客に家族ごとハワイ旅行へ招待された証券マンもいました。今そんな光景を見たら、コンプライアンス部門が気絶するでしょう(笑)。

――今は株価が上がっても、そこまで派手な話は聞きません。

清水 そこが最大の違いです。今は「浮かれていない」のではなく「浮かれられない」。社会保険料も消費税も当時より格段に高く、手取りが少ない。それなのにコメも家賃も値上がりしている。多くの若者はスポーツカーを買うより、将来への不安からNISAでインデックス投信の積立をしています。80年代のバブルは「消費」に向かいましたが、今は「生活防衛」に向かっています。バブル期のアイコンの「マハラジャで扇子を持って踊る女性」は、積立なんてしてませんでしたよ(笑)。

――確かに、これだけ株価が上がっても浮かれた話は聞かないですね。

清水 今はSNSの影響もあって個人投資家が非常に勉強熱心で、冷静にマーケットを見ています。とはいえ、一部の若者が「3000万円貯めてFIRE(早期リタイア)だ」とか言っているのを聞くと、それはそれで一種の現代的な「幻想」というか、別の意味での浮かれモードだと感じることもあります。

「成長率鈍化」がバブル終焉のサイン
暴落しても日経平均3万円が下値か

――もし今のAIバブルが弾けるとしたら、何が予兆になりますか?

清水 象徴的な銘柄の成長率鈍化でしょうね。例えばエヌビディアの成長率が50%から10%に落ちた時。あるいは、東京エレクトロンの受注残が減り始めた時。世界で大手ITが数兆円規模でAIインフラへの投資競争をしていますが、そのリターンが「思ったより少ないぞ」と市場が気づいた時が危ない。

――日経平均株価は1989年の3万8915円の高値から、2009年の7054円まで暴落。実に8割強の下落でした。かつてのように日経平均が数分の一になる可能性は?

清水 それはないと思います。今の日本企業は当時より財務体質も収益力も経営体制もしっかりしている。いま日経平均のPBR(株価純資産倍率)は1.7~1.8倍程度。このPBRが1倍となる3万円前後が強い下値支持線になるでしょう。企業の財務内容もいいので、安値では自社株買いが入りますし、経営陣によるMBO*や割安と感じたライバルや投資ファンドが買収することもあるでしょう。ですから、高値から8割強も下落した「失われた30年」のような悲劇は繰り返さないはずです。

*経営陣が自ら株式を買い取ること

前回は「不良債権」から金融不安
今回は金融システムが安泰

――その違いの理由は?

清水 決定的な違いは前回のバブルは金融機関が不良債権を抱え、金融機関が次々と破綻するなど金融システムが危機に陥りました。今回は金融が健全なことです。

 前回のバブルでは、先述の浮かれモードは銀行融資も同じでした。今ではありえませんが、「この土地を担保に金を貸してくれ。その金で株を買う」みたいな案件が普通にありました。しかも時価1億円の土地を担保に、「いずれ値上がりして2億円になる」と、2億円融資していたことも。証券マンが銀行員と一緒に訪問して、「この土地を担保に金を貸すからNTT株を買いなさい」などと営業していましたからね。

 その後に株価も地価も下落したので、そうした案件が“不良債権”となりました。今回はそのような金融システムを破壊するほどの無茶はされていないことも、前回ほどの大暴落がないと考える要因です。

「下げたら買い」が
通用しなくなったらバブル崩壊

――それでも清水さんは今回の上昇は「いずれ終わり下げに転じる」と見ています。その転換点はいつになりますか?

清水 指標面では、日経平均は上がっていても、TOPIXが下落を開始した時です。1989年のバブル崩壊時も、TOPIXの方が半月ほど先にピークを打ちました。市場全体が買われる状態から、特定銘柄だけが吊り上げられている状態へ変化した時、それは終わりの始まりです。ただし、多くの初心者が「下がったら押し目買いだ」と意気込んでいるうちは、本当の暴落は来ません。

――今はどうでしょうか。

清水 新NISAがスタートした後、2024年8月と2025年の4月に暴落がありました。でも、すぐに株価は回復したことで、「株は下がったら買いでOK」とか言う人が増えてきたのは気になりますね。

――前回のバブルの時は?

清水 前回のバブルの時も1987年にブラックマンデーという大暴落があったのに、その後に上昇したことで、「ブラックマンデーで買っておけばよかったよ」といった声が多く聞かれました。その印象が強かったからか、日経平均株価がピークをつけた後の90年代初期も「買い場到来!」とか「押し目買いのチャンス!」などと言っている人はいたのですが、もう上がることはありませんでした。やがて誰も言わなくなりました。

 その経験から、「下がったら買い」と言っている人が多いうちはバブルは続くと思っています。でも、みんなが確信を持って押し目を買った後、戻らなくなった時が本当の終わりでしょう。いち早く、その転換点に気づくことが大事です。

 バブルの中にいる時は、誰もそれがバブルだとは認めたくないものです。前回も「これは異常だ」と感じながらもバブルをさらに膨らませてしまった。しかし、一歩引いて「この成長は永遠か?」と問い直す勇気を持ってください。そういう意味では、私たちは今、分岐点に立っているのかもしれません。