疫学研究者のデヴィッド・スノウドン博士が、20世紀半ばから後半にかけ、アメリカのノートルダム教育修道女会に所属するシスター678人の生前の生活歴や病歴と死後の脳の解剖学的な初見を対比し、認知症の原因疾患の第1位であるアルツハイマー病との関連を解明しました。スノウドン博士の研究は、脳と認知機能の間の新たな関係を明らかにするものとして注目を浴び、研究の軌跡と結果は、『100歳の美しい脳』(DHC)として書籍にまとめられています(2018年に普及版)。

アルツハイマー病なのになぜ?
認知症の症状が現れなかった脳

 ナン・スタディに参加した修道女は、身体機能と精神機能の標準的な検査を受けます。年に一度受けるシスターもいれば、数年おきに一度のシスターもいたようです。高齢になり病気を患った人、だんだんと認知機能が衰えていった人、それぞれに人生がありました。

 修道女たちの死後、脳はホルマリン漬けで保存され、顕微鏡検査にかけられました。多くの修道女たちの献身によって、スノウドン博士ら研究者は、認知症を患うと脳にどのような変化が起こるのかを分析することができたのです。

 忍耐と集中力が求められる緻密な検査を繰り返すうち、スノウドン博士らは驚くばかりの脳の姿を見ることになりました。それは、生前に認知機能がしっかりと保たれていた修道女たちの脳でした。そのうちの1人であるシスター・バーナデットは、80代半ばで受けた数回の検査の成績はいずれも高得点で、知的能力に問題はなく、日常生活を送る上での介助も全く必要がありませんでした。

 しかし、死後、脳を解剖してみると、「アルツハイマー病にかかっていたとしか言いようのない変化が脳では起こっていた」というのです。認知症に深く関与し記憶を司ることで知られる海馬と新皮質には、神経細胞の内部に異常な線維のからまりがたくさんできていました。そしてそれは、脳の広範囲にわたっていました。

 この修道女について、スノウドン博士は次のように書いています。