修理を手伝っているときに、客から「タバコを買ってきて」と頼まれることがあった。その都度、汚れた手を洗って買いに行っていたが、あるときいい方法を思いつく。それは「まとめ買い」だ。
20個買えば1個をおまけしてくれたので、その分は儲けになる。いちいち買いに走る面倒もなく、修繕中の手も休めず早く客にタバコも渡せる。この、まとめ買い戦法によって、幸之助は月50銭の給料に加えて20~30銭を稼ぐことに成功している。
アイディア次第で、作業が効率化されたり、儲けが出たりすることを、身を以って実感した幸之助だったが、主人から「店の同僚がずるいと不満を持つから」ととがめられてしまった。「人間関係というのは難しい」と痛感したのだった。
さらに時は流れ、15歳になった幸之助が店番をしていたときのことだ。
イラスト/伊達 努
問屋から「急いで自転車を見せにきてくれ」と電話が入った。幸之助はすぐさま飛んでいって、熱心な営業を行い、問屋に自転車の購入を決めさせた。ただし「1割引にしてくれ」という客の条件を断れず、受け入れてしまう。
下積み時代の経験から身に着けた
人間味あふれる経営スタイル
店に戻った幸之助が主人に事情を話すと、「5分だけ引くからともう一度行ってこい」と、値段交渉をやり直してくるように指示される。
幸之助は頭を抱えた。すでに1割引で承諾してしまった手前、相手をがっかりさせることになる。幸之助は情けないやら悔しいやらで、思わず泣き出してしまった。呆れた主人が「おまえはどっちの店員か、しっかりせんか」と叱っていると、催促に来た問屋の使いがたまたまその様子を見ていた。
使いから報告を受けた問屋は、幸之助の心遣いにすっかり感心し、「面白い小僧さんだ。よし5分引きで買ってやろう」と、購入を決めたという。それどころか「あの小僧さんがいる限りは、自転車はここで買うよ」とまで言い出したのである。







