一体何しに日本へ?防衛省OBが警告する「友達のフリ」した外国人スパイの巧妙な手口写真はイメージです Photo:Klaus Vedfelt/gettyimages

警視庁公安部が、日本の工作機械メーカーの元社員とロシアの政府関係者を書類送検した。このロシア人はスパイであり、元社員から営業機密を聞き出した疑いがある。今回の例に代表されるように、日本に潜んでいる外国人スパイは、あの手この手で標的を懐柔し、重要な情報を得ようとする。本稿では、そうしたスパイの巧妙な手口について、防衛省出身者が独自の視点で解説する。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティーコンサルタント 吉永ケンジ)

「偶然を装った」ロシア人スパイが
日本の会社員に接触!?

 今年1月、衝撃的な事件が報じられた。

 警視庁公安部が、日本の工作機械メーカーの元社員と、ロシア国籍の男を書類送検したというものだ。

 ロシア人男性は、在日ロシア通商代表部の元職員。工作機械メーカーの元社員に接触して親しくなり、営業機密を聞き出していた疑いがあるという。元社員は、ロシアの諜報機関による「スパイ活動」の標的にされた可能性が高いとみられる。

 報道によると、ロシアのスパイとされる人物は2023年4月の来日直後、路上で元社員に声をかけて接触を重ねたとのことだ。具体的には、「ウクライナ人」を名乗って道を尋ね、「お礼がしたい」と食事に誘い、代金を支払ったり、現金を渡したりしたと報じられている。

 このように、偶然を装って出会いのきっかけを作ることを、専門用語で「機会接触」と呼ぶ。「路上での声掛け」という一見プロらしくない手法に違和感を持つ読者がいるかもしれないが、これはロシアがソ連時代から行っている伝統的なアプローチである。

 偶然を装って声をかけられた時には、時すでに遅し。ターゲットは「まな板の鯉」状態になっている。

 あくまで想像だが、元社員は「たまたま声を掛けられて」外国人と知り合い、友人として関係を深め、金銭を提供されて気を良くする中で、「ついうっかり」会社の情報を漏らしてしまったのかもしれない。

 だが、おそらくロシアの諜報機関は、路上で男性に接触する少なくとも数年前から、標的の身辺調査を入念に行ってきたはずだ。当然ながら、関係を深めるプロセスも綿密に計算されたものである。

 どのようにして元社員の存在を把握し、ターゲットにしたのかは定かではないが、ビジネスにおける展示会での名刺交換、学会誌や専門誌への寄稿内容や名簿、会社のホームページなどから知り得た可能性がある。

 次ページ以降では、こうした外国人スパイの巧妙な手口と「世を忍ぶ仮の姿」について詳しく解説する。