
ああ、悲しき 立ち聞き
「なして私のすべてを奪おうとするんですか。大好きな松江も、大好きな家族も――」
半狂乱になるトキに、仕方なくヘブンは、はっきり本音を言うことにした。
いまだに布で顔を隠さないと松江を歩けないことを指摘し、トキのことを「知らないところいきましょう。私たちのこと誰も知らない。熊本行きましょう」と説得する。
日本人のように本音を隠すことをだいぶ身につけたらしきヘブンであったが、トキを傷つけないように黙っていると、らちが明かないと思ったのだろう。
トキは自分の恐れを見透かされ、熊本に行くことを涙ながらに了承する。
その一部始終を、錦織が聞いていた。
朝ドラにはよくある「立ち聞き」。
都合よく、その場にいない者が状況を把握するための方便である。襖(ふすま)や障子と音が筒抜けな昔の日本家屋だから成立する、ある意味、風情ある描写。
そのため、朝ドラではしょっちゅう、立ち聞き場面が出てくる。だが、こんなにも悲しい立ち聞きはなかなかないだろう。
頼みの綱のトキが熊本行きを承知してしまっては、なすすべがない錦織の悲しい後ろ姿。うなじのアップ。
虫の声がするかごといくつかの書籍を玄関先に置いたまま、錦織はその場を立ち去ってしまった。
なかなかしんどい展開である。だが、第18週ラストの予告にあった錦織のアップのカットはまだ出てきていない。あの顔はどういうシーンで使用されるのか。これ以上につらいシーンがありそうで、身もだえしてしまう。
ここで、つらいシーンを演じた吉沢亮さんのコメントを紹介しよう。
――朝ドラの撮影は長期に渡りますが、ご心境はいかがですか?
錦織は出演シーンが多いのですが、それでも自分よりも大変なヒロインがいるということに僕は支えられています(笑)。ずっと楽しくやれています。
ヒロイン・高石あかりさんはカメラが回ってないところでもヒロイン然としていて、たたずまいが非常に大人。すごくピュアな部分も持っているので、みんなで支えてあげなきゃと思っているのですが、結果的に彼女に支えてもらっています。
撮影が続くと大変な瞬間がどうしてもありますけど、一番しんどいはずの高石さんが一番楽しそうに現場にいてくれるんです。そこに救われているキャストやスタッフの方が、たくさんいると思います。







