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複数行との取引維持が「心理的安全装置」に
今回は、日本人の国民性や文化的特質が企業の銀行取引数にどのように影響しているのかを考えたい。具体的には、(1)リスク回避志向、(2)ハイコンテクスト文化、(3)長期的な互恵関係の重視、という三つの特徴を取り上げる。これらの文化的要素は、経済合理性のみでは説明できない日本的多数行取引の背景を理解する上で、重要な手掛かりとなる。
まず、リスク回避志向について、日本人は一般にリスクを回避し、安全・安定を重視する傾向が強い。このことは、生命保険への高い加入率にも表れている。生命保険文化センターの2024年度調査によれば、生命保険の世帯加入率は約9割に達し、平均契約件数は3.8件と主要国の中でも突出している。こうしたことから、1行取引が好まれにくい一因として、メインバンクから融資を断られる万一の事態に備えて、「保険」の意味合いで複数の銀行と取引を維持しようとする行動様式を指摘できる。
日本人のリスク回避志向を裏付ける証拠に、オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステッドによる「ホフステッド指数」がある。同指数は、権力格差(上下関係の強さ)、個人主義、男性性、不確実性回避、長期志向、快楽主義(快楽的か禁欲的か)の六つの軸で各国の文化を定量化している。このうち不確実性回避の得点を見ると、日本は65カ国中10位、G7(主要国首脳会議)諸国中では最も高い(注1)。また、OECD(経済協力開発機構)が19年に実施した「世界リスク意識調査(World Risk Poll)」によれば、「リスクを脅威と感じる」と回答した日本人は約80%に達し、40カ国中7位、G7諸国では1位だった。
こうしたデータは、日本社会における「リスクは避けるべきもの」という感覚の強さを示している。企業経営者にとり、金融取引においてもリスク分散を図ることは自然な選択であり、複数行との取引維持が「心理的安全装置」として機能しているといえる。







