日本企業はなぜ今も「1行取引」を選ばないのか?銀行規制が生んだ多行化が今も“最適解”である理由写真はイメージです Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

複数行取引を通じてリスク分散・交渉力確保

 戦後日本の企業金融において、複数銀行との取引は常態であり続けてきた。高度成長期には都市銀行の預貸率が逼迫し、窓口規制や店舗出店規制が企業の資金調達を制約したため、多数行取引は事実上不可避であった。その後、金融自由化と銀行統合を経ても、多数行取引は根強く維持された。企業が複数行取引を求める背景には、リスク分散や交渉力確保などがあり、1行取引を選好する積極的な理由は乏しい。

「なぜ1行取引を避けるべきか」に関するインターネット上の意見には、「経営難に陥った際、取引している銀行から融資を断られると後がない」という趣旨の見解が多い。もっともな理由であるが、戦後の高度成長期においては、経営難による資金の調達難よりも、事業拡大のための前向きな資金を銀行から断られるリスクの方が重要だった。多くの企業が市場シェア拡大を重視するなか、融資を得られないことは痛恨の事態となったからである。

 高度成長期の都銀では、預貸率100%を超える「オーバーローン」が常態化していた。一方、地方銀行の預貸率は80%台で推移していた。背景には、都市部における旺盛な資金需要に加え、店舗規制によって都市銀行の預金吸収力がそがれていたことがある。

 具体的には、都銀が企業集積地に隣接するベッドタウンに新規出店しようとしても、出店はままならなかった。一方、主要都市圏に立地する地銀は、地方からベッドタウンに転入した人たちの預金を獲得する上で有利な立場にあった。当時、農業のウェイトが高く、主要都市圏から離れた地方の地銀もコメなどの農産物の販売代金などを中心に預金を確保できた。