このように、日本企業の海外投資の増加や、いわゆるデジタル赤字と呼ばれるものが円安を生む構造要因である。加えて、新NISAが始まったことで個人の海外向け投資も拡大している。

韓国のサムスンが現地化で飛躍し
日本はガラパゴス化と揶揄された

 では円安のメリットは何か。一般的に言われるのは輸出企業、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーや、高シェアを握る半導体製造装置メーカーや電子部品メーカーなどの収益増だ。

 企業が海外で稼いだ収益が円換算される時、円安になるほど円ベースの収益は増える。1ドル100円と1ドル150円の場合を比べると、同じ1ドルを稼いでも円ベースの収益は1.5倍になる。

 しかし、円安になれば日本企業が国内で生産・輸出に回帰し、国内投資が増えるとは限らない。実はここに、先述の構造的円安が関連する。生産拠点の移転とは、為替変動だけで機動的に行えるほど簡単ではない。

 リーマン・ショック前にさかのぼると、当時は新興国が台頭し、韓国のサムスンなどが飛躍していた。彼らの強みは海外で現地化を進めたことだ。1年間仕事をせずに現地に溶け込む地域専門家制度などを採り入れ、ニーズをくみ取り現地に合った製品を生産していた。一方、日本企業は現地化が遅れ、スマホなどはガラパゴス化と揶揄(やゆ)されたこともあった。

 そうした中、リーマン・ショックが起き、東日本大震災が発生し、それに伴い1ドル70円台の円高となり、企業はようやく海外進出に大きく舵を切った。震災によって生産拠点、サプライチェーンの分散化が必要との判断もあっただろう。

 実は、日本の大企業がこうした決断を行った時期とアベノミクスが始まった時期は重なっている。当時も、円高が是正されれば日本に生産拠点が回帰するのではないかとの意見もあったが、1ドル100円を超える円安が続いても国内回帰は進まなかった。なぜだろうか。