そして実験参加者にリーディングスパンテストを実施して、情動の影響を調べたのです。リーディングスパンテストは、「ワーキングメモリ」と呼ばれる脳機能の働きを評価するテストです。

 そこでは例えば「私はの咲く4月が好きです」という一文が画面に表示され、参加者はその一文を読み上げつつ、下線部の単語(この文では「桜」)を記憶します。複数の文が次々に表示され、終わった後に下線部の単語のみを順に答えるのです。

 ポジティブな文、ネガティブな文というのは、イメージとして次のような文章です。

《ポジティブな文》
 プレゼンテーションが上手だったと先輩に褒められた。

《ネガティブな文》
 人の良い父親が詐欺に遭い、大金をだまし取られた。

《どちらでもない文》
 私の姉は食品関係の会社で仕事をしている。

ポジティブな文は
脳の報酬系機能を活性化する

 上記を見ると分かるように、下線部の単語は「情動の影響が少ない」語を選択しています。にもかかわらず、ポジティブな文を用いると、ネガティブな文を用いた場合と比較して、リーディングスパンテストの得点が高かったのです。

図表:情動リーディングパンテストの成績『もの忘れの脳科学 最新の認知心理学が解き明かす記憶のふしぎ』(講談社)より 拡大画像表示

 またリーディングスパンテストを実施中の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて測定すると、ポジティブな文を用いた場合では黒質や記憶に関わる領域が活性化することが分かりました。一方でネガティブな文の場合では、恐怖や怒りによって活動が強まる扁桃体が活性化していたのです。

 何より興味深いのは、実験参加者はテスト中に「下線を覚えること」に専念しているので、ポジティブな文、ネガティブな文ということにはそれほど注意を向けていない点です。それなのにボジティブな文なら脳の報酬系機能が活性化して、記憶成績に良い影響を与えるということですね。