「おい、看護師を呼べ。眠剤を持ってこさせろ」と不機嫌に声を上げる。
昼間も大半の時間をベッドの上で過ごしているのだから眠気は起こらない。睡眠を薬に頼っていた。だからといって量を増やせばいいというものではない。元日の朝から、足がフラつくのはみっともないと進言すると、親父は渋々、床についた。
それから半刻。再び部屋の灯りがつく。
「おい、仕事をするから、秘書を呼べ」
と声を荒らげる。そこで僕は提案する。
「大晦日ぐらい皆を休ませてあげよう。折角の機会だから、何か2人で話をしようよ」
僕が言い終わらぬうちに親父の怒鳴り声が飛んできた。
『石原家の兄弟』(石原伸晃・石原良純・石原宏高・石原延啓、新潮社)
「親に向かって、利いたような口を利くな。ちょっと売れたからって、いい気になって。お前、何様のつもりだ」
それはそれはパワフルな声だった。一の矢、二の矢、三の矢と相手をズタズタにする言葉を息をつく間もなく投げつける。相手を叩き潰さんとするエネルギーに驚いた。そして何故か、僕は嬉しくなってしまった。どんな時でも、自分の思った事を自分の言葉で言い放つ。これぞ親父の生きる道、生きてきた道ではないか。
押し黙った僕を見て親父は満足したのだろうか、みたび消された部屋の灯りは朝まで点くことはなかった。最後の最後まで、石原家の正月は我儘で賑やかな親父中心に廻っていた。







