ダンバーの出迎えを受けた後、ふらふらと気ままに画廊内を巡り始め、ある展示のそばで足を止めた。「微笑の箱」とラベルの貼ってある箱を開けるとなかの鏡に自分の顔が映った。思わず微笑した。
続いてジョンは白いはしごを上って「YES」をみつける。
《画廊の中を見まわしていたら、はしごが目に入ったんで、その上に登って、てっぺんから小型望遠鏡でのぞいたんだ――馬鹿みたいだけどね。そしたら、イエスってぴんときたんだ。
あの当時、前衛芸術といえば、ハンマーでピアノを粉々にしたり、彫刻をぶちこわしたりの、何が何でもアンチ、アンチ、アンチの連続だった。どれもこれも、退屈で否定的なナンセンスだったね。このイエスって感じただけで、ぼくは、林檎と釘がやたらに置いてあった画廊に残ることになっちゃった》
はしごから降りると長い黒髪の小柄な東洋人女性が待っていた。彼女は1枚のカードを差し出した。
「息をしなさい」とカードに書いてあった。ジョンは舌を突き出して、荒い息をすると、ダンバーがやってきた。2人を紹介する。ヨーコはジョン・レノンという名前を聞いても別にこれといった反応は示さなかった。
自分を特別扱いしないヨーコに
ジョンの心は惹かれていった
次にジョンが見つけたのが「釘をハンマーで打ち込め」と書いた掲示だった。ジョンは「やってもいいか」と聞くとヨーコは「だめだ」と答えた。ショーは翌日から始まるから釘で傷つけたくなかった。そこへダンバーがきて、ヨーコに小さな声で「やらせなさいよ。この人は大金持ちだから、買いあげてくれるかもしれないよ」と囁いた。
2人はしばらくひそひそやって、結局ヨーコが「いいわ。5シリング出してくれたらやってもいいわ」と言ってきた。これに対するジョンのコメントがふるっている。
《お利口さんのぼくは「わかった。5シリング君にあげたつもりで、釘をハンマーで打ちこんだつもりになるよ」って言ったのさ。その時、本当の意味でふたりは出会ったんだ》







