
他人から言われてリアクションに困る言葉の1つに「自己卑下」がある。絶対に肯定できないし、かといって否定するのにも技術が要る「自虐」発言、いったいどうやって返答するのか正解なのか。GLAYのTERUの秀逸な切り返しが参考になるかもしれない。本稿は、川添愛『言語学バーリ・トゥード Round1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』(東京大学出版会)の一部を抜粋・編集したものです。
リアクションに困る
「他人の自虐」
人と話していると、どんなふうにリアクションすればいいか分からなくなることがある。私は何も、出川哲朗並みの「リアクション芸の高み」を目指しているわけではなく、熱々おでんを口に含んだら無言で吐き出すような志の低い人間だが、それでも「ここはどういう言葉を返したらいいのだろうか」と悩む状況は多々ある。
私がもっともリアクションに困るシチュエーションの1つは、「他人が自虐的なことを言ったとき」だ。自虐とまではいかなくとも、他人が自身を低く評価しているようなことを言うシチュエーション全般が苦手だ。これについては、多くの人が共感してくれるのではないかと思う。
たとえ普段の会話のほとんどを「だよね~」「わかる~」の2種のボタン連打で済ませている人であっても、話し相手が「私なんか、○○だし」などとご自身についてネガティブなことを語り始めたときには、さすがに真顔になって特殊技のコマンドを入れるべく、コントローラーを握る手に力が入るのではなかろうか。
とにかく他人の自己卑下というのは、絶対に肯定できないし、かといって否定するのにも技術が要る。
自身についてネガティブなことを言ってしまう人のほとんどは、内心「否定してもらいたい」と考えているはずだ。よって、聞き手の側としても、たいてい「この人は私に否定してもらいたいんだろうな。だから否定しなくっちゃ」と思って否定するわけだが、「否定して欲しいという意図をくみ取ったから、義務的に否定している」ことを相手に悟られてはならない。
つまり、白々しさや取って付けた感じを伴う「そ、そんなことないよ~(泳ぎ目)」といった否定の仕方はあまりよろしくない。
かといって、「あなたがご自身を卑下する発言は、客観的に見て正しくありません。だから私は、あなたの発言を否定いたします」のように正面からガチ否定すればいいというものでもない。というのは、自虐的な発言の裏には、けっこういろんな意図が隠れているからだ。