この長兵衛さんの行為は博愛とか利他とかいうことでは説明がつかない。そう釈先生はおっしゃるんです。だって、娘を吉原に売る直前まで長兵衛さんはだらだら博打を打ってるんですからね。釈先生の解釈は「要するに長兵衛さんという人は人間が雑なんです」ということでした。それを聞いて、みんな腹を抱えて笑ったんです。
でも、雑って結構たいせつですよね。その時の気分気分で適当にやっているんだけれども、後から見ると、結構その選択がひとつひとつピタリと当たっていた、と。賢しらがあると絶対に打てないような手を打つ。
AIが絶対に真似できない
人間特有の「飛ばし読み」
養老:AIにそれができるか、という(笑)。
内田:(笑)AIには長兵衛さんの50両はできないと思うんです。「こういう人」という人格設定をしなければ彼の行動は説明できないのですが、長兵衛さんの特性は「人間が雑なので、やることに一貫性がない」ということなんですよね(笑)。そういう雑なところはAIには設計できないと思います。
よく人間の知性ができる最大の能力は「飛ばし読み」だと言いますね。面倒な情報入力を自動的に遮断して、「情報が足りない状態」のほうを選ぶ。「めんどくさいから情報を抜く」というような芸当はAIには無理でしょう。
養老:雑なAIを作ってみろって(笑)。
内田:(笑)かなり難しいですよね。質問すると雑な答えをするAI(笑)。これは使い物になりませんね。「雑」というのは、人間知性の際立った特徴かなという気がします。
養老:そうすると、すごくいい時代が来るかもしれないですね。人が人らしくなる。「それじゃお前AIと同じじゃねえか」っていう。「人間だろ」って。
内田:人間にできることは何かって。雑になることですよ。忘れるとか、誤読するとか、飛ばし読みするとか。そういうのは人間の「力」ですよね。忘却力、誤解力、あるいはそこにないものを見出してしまう幻想力。
だって、その本に「書いていないこと」を読んだ気になるということってしょっちゅうありますからね。AIに幻覚は見られるか。AIは誤読できるか。AIはドキュメントに書いてないことを読み出せるか。







