65歳を過ぎると、命に関わるリスクは思いがけないところから忍び寄る。しかもそれは、多くの人が見過ごしがちな問題だ。医師で老年医学・栄養科学の専門家であるガブリエル・ライオン氏が書き、世界20か国以上で続々刊行されている『筋肉が全て━━健康・不老・メンタル、人生のすべてが変わる唯一の方法』から、内容の一部を特別公開する。

【意外と知らない】65歳以上の「いつでも起こり得る」身近な死因とは?Photo: Adobe Stock

自立した生活を守るために「筋肉」をつける

 60歳を過ぎると、これまでの健康習慣の成果が形になって表れる。

 筋肉には「細胞の記憶」があるので、鍛えられた神経システムは身体を守る能力を獲得している。逆に、健康習慣に問題があった人は、この年齢になると、著しい筋肉量の減少や体組成の変化が起こる

 身体を動かすのがおっくうになり、ケガをしやすくなる時期だからこそ、内からも外からも身体を強化するための努力を開始し、残された人生を健康に過ごすための習慣をつくらなくてはならない。明日からではなく、今日から始めよう。

 60歳以上の人は、生活の質を念頭に置いて食事や運動の計画を立てる必要がある。何度も繰り返すが、いつまでも自立した生活を続ける最善の方法は筋肉の量を保つことだ。

「転倒」という重大な死因

 疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカでは毎年300万人の高齢者が転倒によって救急外来の治療を受けている。毎年、65歳以上の成人の3人に1人が転倒し、そのうち股関節骨折を起こした人の4分の1が転倒後1年以内に死亡している。65歳以上の事故死の最も一般的な原因は転倒によるケガなのだ

 この統計に含まれないようにがんばろう。

 研究によると、65歳以上の人でも、週に2~4日の適切に設計された筋力トレーニングによって、最大筋力、筋量、筋瞬発力、および機能的能力が向上することがわかっている。有酸素運動と筋トレが、この年齢層の人びとの認知機能に好ましい効果をもたらすという研究もある。

 運動することで放出される気分をよくするホルモンには、脳を活性化させ、身体の意識を向上させる効果があると指摘されている。

 若いころから始めた場合より、効果が表れるまでに時間がかかるが、適切に設計されたプログラムであれば、高齢になってから始めた場合でも十分なメリットが期待できる。

転ぶと何が起こるか?

 崖から落ちて死ぬ人はそれほど多くないので、死因の公式統計では、転倒が原因の死亡者はそれほど多くない。だが実際には、上位10種までの死の「原因」のうち、少なくとも9種は筋肉の健康と可動性の問題がその根底にある。

 言い換えると、肥満はCDCの統計ではおもな死因ではないが、心臓病、がん、糖尿病、呼吸器疾患、アルツハイマー病などを引き起こす死の基礎疾患にほかならない。

 肥満も、筋肉の衰えも、可動性の低下も、すべて死の主要な原因だが、CDCにはその関係を定量化する方法がない。彼らは医師が死亡診断書に記載した死因を記録するだけだ。

 転倒すると、その後は日常生活活動(ADL)を維持することが難しくなり、認知機能や感情的健康、さらには代謝の健康にまで悪影響がある。アメリカでは毎年、65歳以上の成人が30万人以上、股関節骨折で入院している

 このような骨折は、その後数年以内に、体内で組織や筋肉が分解されていくカタボリック危機〔身体がエネルギーを得るために筋肉や脂肪を分解するプロセス〕を生じさせる引き金となる。

死なないために身体を動かす

 アメリカでは「心臓病」による死亡者数は年間約38万人に達し、それとは別にさらに32万人が原因不明の心停止で死亡している。カタボリック危機という観点から転倒を考えると、転倒は65歳以上の人びとのケガや死亡の主要な原因であり、世界的にも不慮の死亡原因の第2位となっている

 このことからも筋肉が人生において闘い続けるための鎧であることがわかる。

 損傷した筋肉を修復するのが難しいという科学的事実を隠すつもりはない。しかし、筋肉の健康を改善するのに遅すぎることは絶対にない。

 加齢のせいで必要な活動量を維持できなくなった人も、強く健康になることができる。病気やケガの治療中でも、コントロールされた安全な方法で活動レベルを高める方策は無数にある。

 効果を上げるためには、気分に左右されることなく身体を動かし続けることが大切だ。今日はトレーニングを始める日だと自分に言い聞かせよう。

 思っていた以上に衰え、動きも鈍くなっているかもしれないが、そこで挫けてはならない。

 できることから始めて、気持ちを盛り上げていこう。衰えた自分を責めるのではなく、前向きな気持ちで少しずつ前進していこう。

(本記事は、ガブリエル・ライオン著『筋肉が全て━━健康・不老・メンタル、人生のすべてが変わる唯一の方法』からの抜粋です)

ガブリエル・ライオン(Dr. Gabrielle Lyon)
医師(DO)
イリノイ大学で栄養科学の学部課程を修了後、セントルイス・ワシントン大学において老年医学・栄養科学の臨床・研究フェローシップを修了。健康、パフォーマンス、老化、疾病予防におけるタンパク質の種類および摂取量の実践的応用に関する分野の専門家、教育者として活躍している。筋肉についての最新研究を網羅した本書は全米で大きな話題を呼び、ニューヨーク・タイムズベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナルベストセラー、USAトゥデイベストセラーとなり、世界各国での刊行が続いている。