「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。新年度を迎えるこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。

職場で「出世する人」がやっている行動・ベスト1Photo: Adobe Stock

出世と実績・能力に相関はない

――仕事をコツコツ頑張っていても、組織の中では思うように評価されない悩みを持っている人は多いように思います。スムーズに昇進、出世するために必要な考え方はあるのでしょうか?

山口周氏(以下、山口):スタンフォード大学ビジネススクールの教授で組織行動学を専門としているジェフリー・フェファー氏は、出世の研究をしています。研究の結果、出世と実績や能力、スキルはほとんど関係がないことがわかっているんですよ。

――えっ、実績や能力は関係ないんですか?

山口:じゃあ何が関係しているのか。出世する人は、偉い人たちに対してお願いをしている回数が多いのです。「コーチになってくれ」とか「3ヵ月に一回、食事をしながら質問をさせてくれ」といった図々しいお願いです。もちろん、たいていは断られます。でも、20人30人とお願いしていれば、なかには「いいよ」と言ってくれる人がいます。断られても、「面白いヤツがいる」と覚えてくれる人はいるでしょう。これが社会資本になるのです。

「こんなお願いをするのは図々しいと思われるんじゃないか」「どうせ断られるに決まっている」と言ってやらない人がほとんどですが、これが出世する人としない人の違いなんです。

絶対優位の戦略とは

山口:これはゲーム理論の「絶対優位の戦略」という考え方で説明ができます。

「絶対優位の戦略」とは、相手がどう出てこようと、周辺環境がどう変わろうと、自分の持っている選択肢の中で一番リターンが大きくなる選択肢のことです。

『人生の経営戦略』の中では、1983年のアメリカズカップ決勝戦を例に説明をしています。

アメリカズカップは、カップホルダーのチャンピオン艇と挑戦艇が1対1で争うマッチレース。7試合のうち4勝を先取したほうが優勝です。

1983年のアメリカズカップ決勝戦は、4試合を終えた時点で、デニス・コナーがスキッパー(艇長)を務めるアメリカのリバティー号が3勝1敗でリードしていました。4戦目がスタートしたとき、挑戦艇であるオーストラリアⅡ号はフライングのために一度スタートラインに戻らなくてはなりませんでした。この時点で、チャンピオン艇は37秒もリードしています。普通にやれば確実に勝てます。

ところが、挑戦艇であるオーストラリアⅡ号は、「当日の風向きは安定している」という予報を無視し、大きく風向きが変わることに賭けてコースの進路を変えたのです。

このとき、チャンピオン艇は現時点の風に最適なコースを走り続ける選択をしました。その結果、風向きが変わって負けたのです。

「絶対優位の戦略」は、挑戦艇と同じ方向に舵を切ることでした。そうすれば風向きが変わろうと変わるまいと勝つことができたはずです。

――どう転んでも優位な選択肢が存在するケースがあるのですね。

山口:そうです。私たちの人生の中でも、絶対優位の選択が存在することもよくあるんです。出世する人が、偉い人にお願いごとをするという話もそうです。

お願いを受けてくれた場合にはいろいろなアドバイスがもらえるし、その人に覚えてもらえますから、これは絶対に得ですよ。断られた場合も損はありません。お金を払うわけでも時間をかけるわけでもないのですから。

私たちはしばしば、自分が「いったいどのようなゲームを戦っているのか?」という点から離れて、目の前の仕事のパフォーマンスを上げることを近視眼的に追求してしまいがちです。でも、そのようにしてパフォーマンスが上がったとしても、「人生というゲーム」に敗北しては元も子もありません。

不幸な人は「余計なこと」をしている

山口:付け加えると、運がいい人はいろんな場面で「絶対優位の戦略」を取っているのではないかと思います。それがポジティブな結果に結びついているのです。周りの人は「なんであの人とつながったの?」とか「よくそんなお願い聞いてくれたね」とか言うでしょうが、その人は行動を起こしているわけですよ。

一方で、不幸な人は余計なことをして不幸を招いています。やらなくていいことをやるというのは、「絶対劣位の戦略」とでも言うべきものです。

たとえば、SNSでの誹謗中傷が典型ですよね。一文の得にもならないことをやって、場合によっては破滅しているわけですから。良くてリターンゼロ、悪ければ破滅ということで、マイナスしかないんです。

人生で「プラスになる可能性のあることしかやらない」と考えると、日常の行動が変わってくると思います。

(この記事は、『人生の経営戦略』に関連した書き下ろしです)