クセが強すぎる
「頑張っているアピール」

 極めつけは電話応対。取引先や客から電話がかかってくると、高梨さんは受話器を持ったまま、その場で立ち上がり、フロア中に聞こえるほどの大声で「あー、社長! ご連絡ありがとうございます」などと立ったまま話し続けるのだ。

 犯行声明を出すなど、社会を巻き込む「劇場型犯罪」という言葉があるが、彼を評するなら“劇場型会社員”といったところか。

 これを勤務時間中ずっと隣でやられたら、たまったもんじゃない。入社してしばらくは気づかなかった高梨さんの癖は、他の社員の業務を妨害するレベルだったのである。

 私がそのことに気づいた頃、先輩の女性社員と帰り道で一緒になった。

「柴田くん、大丈夫? 高梨さん、うるさいでしょ」

「ええ、まあ…」

 苦笑いしていると女性社員が言った。

「自分の仕事がうまくいっているときは静かなのよ。なにか思い通りにならないときはひどくなる。『僕、こんなに頑張ってますよ』ってアピールなんだよね」

 このあたりから、高梨さんの騒音は激しさを増し、私への先輩風も強くなっていった。彼の仕事がうまくいっていないのは明らかだった。

 最初は一緒に食事もする仲だったが、この頃には私からは業務連絡しか彼に話しかけないようになっていた。高梨さんと深く関われば関わるほど、私のストレスが増えるからだ。

「わかり合う」のをやめてみる

 “人生の指標”となる言葉の数々を収録している本、『人生は期待ゼロがうまくいく』の中には「『わかり合う』のをやめてみる」という項目がある。

 相手との意見の食い違いに苦しむときがある。合わない相手と無理にわかり合おうとして毎日衝突すれば、そこが家だろうが職場だろうが即、地獄と化す。少しでもマシに思えていた相手のいい面さえ見えなくなり、言い争いに発展して、解決の糸口も奪われてしまう。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(P.30)

 その通りだと思う。私も自分の仕事がパツパツのときに、高梨さんに別の仕事を無茶ぶりされてキレそうになったことがある。

 著者のキム・ダスル氏は、こうした人たちから距離を置くことが重要だと書籍の中で何度もアドバイスしている。

 相手との溝がどうしても埋まらないときは距離を取るべきだ。家庭が地獄なら家を出る、職場なら業務上のやりとりのみに徹する。友人や恋人なら会う頻度を減らす。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(P.31)

 結局、私は1年足らずで高梨さんがいる会社を辞め、元いた業界に舞い戻ったが、普通に静かな職場環境がいかに大事であるかを思い知らされた。

(本記事は『人生は期待ゼロがうまくいく』の発売を記念した書下ろしエッセイです)

柴田賢三(しばた・けんぞう)
大学卒業後、複数の出版社や不動産会社での社員を経てフリーライターとして独立。週刊誌、月刊誌、WEBメディアなどで記者、編集者を経験した。事件、芸能、スポーツ、サブカルチャーまで幅広く取材に携わり、のちに新聞やテレビでも大きな話題になったスクープをモノにしたこともある。