バリバリに働いていた人が鬱になり、どのように社会復帰するかについて書かれた『弱さ考』という本があります。メディア編集長の佐藤友美(さとゆみ)さんは、この本を読んだ友人と話していたら、胸がゾワっとするようなエピソードを聞いたと言います。(文/佐藤友美 編集・写真/ダイヤモンド社・今野良介)

メンタル不調で休職中の部下。その上司が社内で放った「おぞましいひと言」を私は聞いてしまった。最後まで読んでください

友人と、久しぶりに飲んだ。

仕事熱心で、友達思いで、明るく元気な友人。仲間内で集まるときに彼女がいると、いつも場が笑いにつつまれる。気持ちのよい、素敵な人だ。

新卒から大企業でバリバリ働く彼女だけれど、30代の頃に心の調子を崩し、しばらく会社を休んでいた時期がある。その話を聞いたときはびっくりした。

当時は、実家に戻ってしばらく静養していたそうだ。無理のないタイミングで復帰させてくれた会社には本当に感謝していると、彼女は話す。

その日、私が「『弱さ考』という本があるんだけど知ってる?」と聞いたら、彼女は、もちろん知っていると答えた。鬱になった人が、その後、どのように社会と向き合っていくかについて書かれた本だ。

「私がメンタルが理由で会社を休んだとき、上司の机の上に『弱さ考』があったら、もっと楽だったのにと思った」と彼女は言った。

会社に復帰したあとも、「今日は少ししんどい」「できれば早退したい」という言葉を、なかなか言いにくかったそうだ。「仕事ができないやつだ」と思われているのではないかと気になってしまうのだとか。当時の上司が『弱さ考』を知っていてくれたら、もう少し相談しやすかったかもしれないという。

そして、彼女自身の話とは別に、「今、とても心配なこと」を話してくれた。

彼女の会社に、メンタル不調で数ヶ月休んでいるメンバーがいるらしい。もうすぐ復帰の予定なのだが、彼女の上司が、そのメンバーに対して非常に否定的なコメントをするのだという。

「こんなに休まれては、戦力にならない」

そんなあけすけな発言をするそうだ。

その上司には、休職期間が長期にわたっているのが、復帰の努力をしていない人、仕事を頑張る気がない人に見えているようだ。そういった発言を聞くたびに、彼女はいつもひやひやしているらしい。

「私も、以前はメンタルの不調で休職したことがある身ですから」と伝えると、その上司はこう言ったのだという。

「でも、君はほら、頑張って復帰して活躍してるじゃない。彼とは全然違うよね。君は努力して復帰したんだから、いいんだよ」

その言葉を聞いた彼女は、しばし考えてしまったそうだ。

たしかに、自分は職場に復帰することができた。そのための努力もした。だけど、努力だけでどうにもならないのがメンタルだ。

「休んで申し訳なかった」と思う自分を「そんなふうに思わなくていいんだよ」と支えてくれる人たちがいたからこそ、自分は今、仕事ができている。

しかしその一方で、そのメンバーを受け入れる自分の気持ちを考えて、ぞっとしてしまったというのだ。

きっとそのメンバーは、自分と同じように、長期間休んでいたこと、以前のように全力で仕事できないことへの罪悪感を持ちながら働くだろう。

「迷惑かけて申し訳ない」「助けてくれてありがとう」と常に表明しながら働くのは、しんどいだろうと思う。できれば、それをしないですむ環境を作ってあげたい。

でも、かといって、そのメンバーがそういったわかりやすい謝罪や感謝の態度を、口にしなくなったとしたらどうだろう。

こちらが勝手に期待している言葉を表明してもらえないと、ひょっとしたら釈然としない気持ちになってしまうかもしれない。

そのメンバーが休んでいる間、踏ん張ってきた自分たちは、踏ん張ってきたからこそ「それなりの態度」を求めてしまうかもしれない。

自分自身が鬱を経験して、彼のしんどさが分かる人間だと思っていたのに、それは随分さもしい心理だと思って、自分が怖くなってしまったというのだ。それは、とても真摯な告白だった。

彼女と別れてからも、その話が忘れられなかった。
私も心がぞわぞわとしたからだ。

私はどう思うだろう。どう接するのが良いのだろう。
解けないパズルをもらったような気がする。

(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』についての書き下ろし記事です)

佐藤友美(さとゆみ)

書籍ライターとして、ビジネス書、実用書、教育書等のライティングを担当する一方、独自の切り口で、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆している。さとゆみビジネスライティングゼミ主宰。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLOR』編集長。著書に『書く仕事がしたい』(CEメディアハウス)、子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)、『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)など。1976年北海道知床半島生まれ。