多様性やダイバーシティの重要性が叫ばれ、「みんな違って、みんないい」といわれます。ただし、その本質を見誤ってメンバー同士の衝突を避けていると、「組織の器」を成長させることが難しくなるので要注意です。その理由やポイントについて、加藤洋平さんと中竹竜二さんの新著『「人の器」の磨き方』より一部抜粋してご紹介します。

中竹「みんな違って、みんないい」…?(Photo: iStock/maroke)

多様性、ダイバーシティの罠にはまるな

 会議で「異なる意見」をどう扱っているでしょうか。ぶつかるのを避けてやり過ごすのか、それとも向き合って議論するのか。実はその選択が、組織の器を決めているのかもしれません。

 多くの組織が多様性やダイバーシティに取り組んでいますが、「みんな違って、みんないい」という言葉の誤用には注意が必要です。

 本来、多様性やダイバーシティには衝突や対立がつきものです。その衝突が組織の器にはとても大事です。「みんな違って、みんないい」を誤って解釈すると、衝突を避けることが推奨され、多様性の本来の目的である、変化を起こし、新たなものを生み出すことができなくなります。

 これが、「多様性やダイバーシティの罠です」。個性が尊重され、意見も言いやすいとメンバーは思っていても、意思決定が遅くなったり、最悪の場合、会議はすれども何も決まらないことに陥ったりする懸念があります。

 ただ、いったん、この罠にはまることも、組織としての器を成長させていくには必要なプロセスです。異質を受け入れて自分たちの限界を感じ、そこから生まれる葛藤や軋轢が健全に起こることが大事だからです。

 欧米の組織では、会議中は熾烈な意見のコンフリクトが起きても、会議が終わって部屋を出るとふだんどおりの日常会話に戻ります。しかし日本の組織はその逆で、会議ではみんな賛成したものの、会議室を出たあとに「あれ、ちょっと違うんじゃない」のようなことがよくあります。

 重要なのは、議論の対象を人ではなくイシュー(論点)にすることです。人を攻撃するのではなく、論点に対してクリティカルに議論することで、良いコンフリクトを生むことができます。

 多様性の本質は、違いを認め合うだけでなく、その違いをぶつけ合い、そこから新しいものを生み出すこと。それが組織の器を育てていくことにつながるのです。

組織の器に影響を与える条件

 あなたは、チームの人たちに言いにくいことを「遠慮して言わない」ことはないでしょうか。それが礼儀だと思う気持ちもわかりますが、組織の成長にはブレーキかもしれません。組織の器が成長していくと、どのような変化が起こるのでしょうか。まず、柔軟性が生まれ、「曖昧性を受け入れる」「物事を俯瞰的に見る」「矛盾を超えていく」─こうしたことをメンバーがフィードバックし合いながら行えるようになることがカギです。

 私(中竹)の専門分野の一つでもあるフォロワーシップの観点では、スポーツではコーチが選手にフィードバックするのは当然ですが、コーチだけではなく、試合中に選手同士がフィードバックし合うことも大切です。

 なぜ、選手同士のフィードバックが重要なのでしょうか。

 ラグビーの指導者時代、試合中はコーチは指示できないので練習の中でフィードバックし合うプログラムを取り入れていました。練習グラウンドでいったんプレーを止めて選手が集まって行うほか、ミーティングルームでは映像を使って話し合いを行いました。

 ある選手のプレーについて「このプレーはコーチ目線だったらどんなフィードバックをするか?」「このプレッシャーがかかった状況で、このパスはどうなんだ?」と、選手同士が当事者として意見をぶつけ合うようにしたのです。常に選手たちだけでフィードバックし合える習慣をつくることで、遠慮なくものが言えるチームにするのが目的でした。

 スポーツの世界ではエースにはなかなか遠慮があって、プレー中には意見が言いにくいものです。いろいろなシチュエーションでフィードバックすることを習慣化することで、それが文化になっていきます。揺るぎない文化ができると、それがチームを強くしていきます。

 ビジネスでもハイパフォーマーには意見を言うことが憚れることがありますが、「天才なんていない。誰にも伸びしろはある」ことが共有されれば、成長のためのフィードバックがしやすい雰囲気が醸成できるというのが私の思いです。

 だからこそ、指導していたラグビーチームでは選手全員が本音でフィードバックをする、受ける、この両方のトレーニングはスキルの練習以上に重視しました。これを「チームトーク」と呼んで、徹底的に行ったのです。

 その結果、チーム内で意見が言いやすくなったことでチームが成長していき、器が育っていくプロセスが実感できました。

雑菌や異質を取り入れる

 組織は放っておくとどうなるでしょうか。多くの場合、“無菌状態”になっていくようです。同じ価値観、同じやり方、同じ人間関係では、安心感はあっても成長は鈍化してしまいます。

 私(中竹)はこれを防ぐために「雑菌や異質を取り入れる」ことを実践するようにしています。雑菌(荒削りさ)は摩擦を生み、異質(価値観の違い)は違和感をもたらします。しかし、それこそが人や組織を鍛える最高の栄養です。

 雑菌が入ればコンフリクトが生まれ、異質と触れ合えば違和感や不快感を感じますが、それをあえて受け入れるところに人や組織の成長の妙味があります。

 異質を入れることで組織の文化が変わることがあります。日本代表の負け犬根性を払拭したエディー・ジョーンズさんはそれまでの日本の指導者とは違った異質の存在といえます。かつてないほどのハードワークを代表選手に課してきたジョーンズさんでしたが、それまで言ってきたこととは違った方針をいきなり選手に告げることがありました。いわゆる、朝令暮改です。

 今まで死ぬ思いでやってきたのに違うことをやれと言われた選手たちは怒りを噴出させたのですが、ジョーンズさんとしては間違ったらすぐ正すということにすぎないので、選手たちはいまになって何だとエディーさんにくってかかりました。それまでの代表チームではヘッドコーチに直接反発することなどありませんでしたから、これはちょっとした“事件”でした。

 この衝突は、ヘッドコーチと選手が「ワールドカップで勝利する」という目的を共有していたからこそ起こったのです。

 実は、これが組織の器を成長させる導火線になりました。目的を共有したうえでお互いが思っていることを忌憚なく言い合う環境ができてきたことで組織の器が成長していったのです。

 ただ、いきなり雑菌や異質を入れてはアレルギー反応を起こすかもしれないので、その場を見極めながら徐々に進めて強い土壌をつくることがポイントです。安定している組織に例えば競争心あふれる人を入れることは危険ではと思われがちですが、必要であればやるべきでしょう。競争心が弱い組織であれば、負けず嫌いな人がそこに入れば刺激になるし、うまく機能すれば組織活性の起爆剤になります。

 組織を活性化するには、競争は絶対に必要です。問題は、競争のさせ方です。売上をどれだけ伸ばしたか、どれほど成果を上げたかだけでなく、成長意欲を伸ばす目的の理解も必要です。それがメンバーに浸透していれば、健全な競争で組織力が強まります。

 さらに付け加えると、競争に勝てなかった人を敗者として決めつけず、勝てなかったことについてのリフレクションやフィードバックを行い、再挑戦への意欲が喚起できる組織はしっかりとした器ができている状態だと明言できます。