利益は誰かの夢を叶えるために使う

 利益を出す理由は決して会社を大きく見せるためではない。生産台数で他社に勝つためでもない。お客様に喜ばれる安全で高品質な車を造り、技術者のための研究費を生み出すためである。

 石田氏の温かくも力強い信念が上記の言葉から真っ直ぐに伝わってくる。数字だけを追い求めるのではなく、常にお客様と技術者の顔を思い浮かべていたのである。

  利益を確保した石田氏は、技術者たちが夢に描いていた純国産乗用車の開発に多額の資金を提供した。1955年に発売された名車クラウンや1957年に発売されたコロナは、日本の自動車産業の歴史を変える大成功を収めた。

 莫大な開発費が必要であったにもかかわらず、石田はお金の心配はしなくていいから最高の車を造ってくれと技術者たちを励まし続けた。技術者を信じ、技術者のために資金を用意する。利益は誰かの夢を叶えるために使うという尊い哲学がトヨタ自動車の根幹に深く根付いていったのである。

 時代は進み、現代はどうなっているだろうか。

   石田氏の教えは、過去の古い思い出などではない。企業が自らの力で市場という厳しい舞台に立ち、誰にも頼らずに利益を生み出す。稼いだお金を無駄にせず、新しい技術へと振り向ける。自立した精神と自由な競争を大切にする態度は、現在のトヨタ自動車の財務の数字にもはっきりと表れているのである。

 2023年に発表された、リウ・イービンによる研究論文『トヨタの財務分析と戦略的予測』を読むと、石田退三が築き上げた財務の精神が現在も力強く生きている事実がよくわかる。

   論文では、利益と負債のバランスについて次のように分析されている。

《高度な判断や大きな見積もりを必要とする分野が3つあります。研究開発に関連する無形コスト、オペレーティング・リース上の車両および機器、そして収益認識です 。その結果、トヨタは2022年の年次報告書でこれらを重要な会計原則として指定しました 》