「このタスクはA、B、Cの3つに分けられるだろう?Aは去年やったアレに似てるよ。アレと同じやり方でいいんだよ。だから、まずAのこの作業からやるといいんだよ」

「これまで、実はこの仕事みたいなものがなくて、ちゃんと向き合ってなかったんです。それで叱られるかと思っていました。なのに、こんなふうに一緒に見てもらえると心強いです」

 もはやひとりでは向き合うことができず、怖すぎて現実逃避していたスズキさん。上司の存在がどんなにありがたかったことか。

やる気なく見えるのは
怠けではなく不安のサイン

 さらに上司は、締め切りまでにそのタスクに実際に使える時間をスズキさんと一緒にカウントし、計画を可視化しました。「締め切りまで5営業日あるね。1日2時間ずつこの作業に使えるとして、合計10時間。Aに4時間、Bに4時間、Cに2時間。Aの前半を今日の2時間で終わらせれば、全体が間に合いそうだ」。

 こうして上司が数字とスケジュールで「間に合う感覚」を共有したところ、スズキさんの表情が少し明るくなりました。完璧を求めず、まずできる範囲から動くことを体験してもらう。それが認知的回避のループを断ち切る最初の一歩だったようです。

『なぜあの人は時間を守れないのか』書影なぜあの人は時間を守れないのか』(中島美鈴、PHP研究所)

 また、上司は「困ったら、ここを見てください」と参考資料を渡し、「わからないところは一緒に考えよう」と声をかけました。スズキさんは「助けを求めてもいい」と思えるだけで行動のハードルが下がったと言います。さらに必要に応じて、他のメンバーの手を一時的に借りる体制も整えました。

「自分ひとりで完璧にやらなければならない」という思い込みを外し、「少しずつ、助け合いながら進めればいい」という新しい認知をインストールしていく。これが、上司の本当の時間管理です。

 スズキさんはその後、計画通りに少しずつタスクを進め、無事に締め切りを守ることができました。「やってみたら、思ったより大変じゃなかったです」と言った彼の笑顔は、まるで長い間の重荷を降ろしたようでした。

 認知的回避は「怠け」ではなく、「不安のサイン」です。だからこそ、指導のは、焦らせることではなく、安心させて具体化することなのです。安心があって初めて、人は期限に向かって現実的に動き出せるのです。