親しい相手がなんだか不機嫌そうなとき……相手を気にかけたつもりで「何怒ってるの?」などと声をかけて、「怒ってなんかないよ!」「ほら、怒ってるじゃん」と関係をギクシャクさせてしまったことはありませんか? 職場でもしばしば、そのような場面を見かけるものです。なぜ、こんなことが起きるのか? どうすれば、もっとよい関係を築けるのか? 心理的リソースという概念を提唱して話題となっている『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』の著者・櫻本真理さんにわかりやすく解説していただきました。

なぜかパートナーが不機嫌…そんな時に絶対に言ってはならない「NGワード」とは?Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

「何怒ってるの?」が喧嘩の火種になる

 家族やパートナーとの間で、相手の表情がこわばっていたり、言葉数が少なかったりするときってありますよね。そんなときに、ついこう言ってしまうことはないでしょうか。

「何怒ってるの?」

 すると、こう返ってきます。

「いや、怒ってないし」

 でも明らかに空気は悪くなり、あなたの言葉も強くなります。

「ほら、怒ってるじゃん」
「いやいや、そっちが怒ってるんでしょ?」

 気づけば、ちょっとした一言が口論に発展している……。

 そんな経験はないでしょうか。

配慮したつもりで、心理的リソースを奪っていないか

 このような現象を、「心理的リソース」の観点で考えてみましょう。

「心理的リソース」とは、考える・感情を整える・判断するための有限の心のエネルギーのことです。相手の表情がこわばっていたり、言葉数が少なかったりするというのは、相手が心理的リソースをすり減らしている状況にあるかもしれない、ということです。それを、必死に隠そうとしているのかもしれません。

 あなたはもしかしたら、相手の状態に気づいて配慮しているつもりかもしれません。

 でも、これは少し余裕がなくなっている相手からすると、「何怒ってるの?」というのは、さらに「心理的リソースを奪う」行動なのです。

 なぜなら、この言葉には、次のような「無意識の前提」があるからです。

●あなたは怒っている
●怒っているのはよくないことだ
●自分はそれに気づいてストレスを感じてる

 実際、本人は怒りを我慢しようとしているのに、こんなふうにラベルをはられてしまうと、相手は、自分のことを責められているように感じます。つまり、ただでさえ心理的リソースに余裕がない状況から、さらにすり減らしてしまうのです。

 そして、ラベルを貼られた瞬間に、人は防御モードに入ってしまいます。
 自分を守るために、相手に対して「なんで決めつけるのか」と苛立ったり、「自分が消耗している原因は相手にある」と考えたくなってしまうのです。

 この「防御モード」が状況をさらに悪化させます。

 その苛立ちを見た相手は、
「ほら怒ってる」
 とさらに確認し、それを否定する相手に苛立ちを覚えるからです。

 こうして、消耗が消耗を呼ぶという悪循環が始まってしまうのです。
 ここで起きているのは、コミュニケーションではなく、心理的リソースの奪い合いの連鎖なのです。

 もしかすると、最初は誰も怒っていなかったのかもしれません。でも、「何怒ってるの?」という声がけによって、消耗の連鎖が生まれ、お互いに嫌悪感を増幅させてしまうのです。

相手の感情ではなく、心理的リソース不足に気づく

 では、相手のどこか不機嫌そうな状態が気になるとき、どう対処したらいいのでしょうか。

 それは、相手が「怒っている」と決めつけをするのではなく、ただ「あ、この人は今、心理的リソースに余裕がないんだな」と気づくことです。

 心理的リソースに余裕がないと、人はちょっとした刺激に反応してしまったり、冷静になれなかったりします。

 そこで「何怒ってるの?」という言葉でさらに心理的リソースを奪う行動を取るのではなく、一歩引いてみて、まず、相手の心理的リソースを満たすことを意識するのが正解なのです。

 たとえば……、
今日は大変だったよね」と共感をする。
「何か手伝えることある?」と手伝いを申し出る。
「たまにはご飯はデリバリーにしようか」と相手の負担を減らす提案をする。

 こんなふうな配慮を示されると、相手の心理的リソースは満たされ、相手の心には余裕ができます。そうして初めて、より冷静なコミュニケーションが取れるようになると同時に、心理的リソースを満たしてくれる相手を信頼できるようになるのです。

 家族や友人、職場の同僚など、距離の近いパートナーとの関係性は、最も「素」が出やすいがゆえに、「心理的リソースの奪い合い」に陥りやすい関係性でもあります。その連鎖に陥らず、お互いの心理的リソースを満たし合う連鎖を生み出すためには「まず、自分が心理的リソースの消耗の連鎖を止める」という意識を持つことが大切なのです。

(心理的リソースについては、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』に詳しく書いてあります)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。著書に『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(ダイヤモンド社)。