知らなかった娘の一面

「どういうこと?」

「ミクちゃんのパパも同じこと言うらしいんだけど、ミクちゃんはパパのパソコンのパスワードを予測して何度もトライして突破しちゃったんだって。でね、パパのパソコンから履歴を消したり、年齢制限も解除してるんだよ」

 思わず、お茶を吹き出しそうになった。

 言われてみれば、娘に与えたデバイスは徹底管理しているつもりでも、自分のパソコンは「自宅用だから」と、家族なら推測しやすい誕生日などの簡易なロックをかけているだけだ。

 私は昭和生まれなので、そもそもパソコンなどの操作に疎い。しかし、彼女たちは生まれたときからスマホやタブレットを与えられ、テレビではなくYouTubeやTikTokなどを観て育ったデジタルネイティブなのだ。

 同級生全員がドリフで笑い、空き地に落ちていたカピカピになったいかがわしい雑誌で興奮していた私たちの世代からすれば、彼女たちはアノニマスのようなハッカーレベルの知識を持っていると思ったほうがいい。

 ミクちゃんは優等生で、ウチに遊びに来ても行儀がよいお嬢さんだ。自宅でも、いい娘さんを“演じて”いることだろう。急に、目の前の自分の娘も信じられなくなり、しばらくの間、不安になった。

「わかったつもり」こそ危険な態度

 “人生の指標”となる言葉の数々を収録している本、『人生は期待ゼロがうまくいく』の中には「『わかったつもり』の落とし穴に注意する」という項目がある。

自分のことすら知らないのに、相手のことを「わかったつもり」でいるなんて、おこがましい話。僕らは、ほんのわずかな一面しか知らず、自分の見たいように見て、信じたいように信じているだけなのだ。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(p.163)

 赤ん坊の頃から育てている娘のことは、誰より「わかったつもり」でいたが、そうではないことに改めて気づかされたから不安な気持ちになったのだ。

 著者のキム・ダスル氏は、解決策をこう説いている。

知らないままでも生きていける。だけど、知ろうとする姿勢こそが人を人にする。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(p.163)

 この一文に触れた日から、娘との対話を積極的に増やしている。思春期にさしかかった彼女のほうは少し迷惑そうにしているが……。

(本記事は『人生は期待ゼロがうまくいく』の発売を記念した書下ろしエッセイです)

柴田賢三(しばた・けんぞう)
大学卒業後、複数の出版社や不動産会社での社員を経てフリーライターとして独立。週刊誌、月刊誌、WEBメディアなどで記者、編集者を経験した。事件、芸能、スポーツ、サブカルチャーまで幅広く取材に携わり、のちに新聞やテレビでも大きな話題になったスクープをモノにしたこともある。