睡眠時遊行症は、ノンレム睡眠中に無意識で行動をしてしまう、ノンレム睡眠随伴症(ノンレムパラソムニア)のひとつだ。

 睡眠時遊行症の多くは、発達に伴い消失することが多いが、ノンレムパラソムニアが大人で見られることもある。単に歩行するよりもずっと複雑な行動が見られることもある。

 脳波的には深い眠りの状態にありながら、感覚と運動は驚くべき連携を見せる。しかもこうした行動を本人はまったく覚えていないのだ。

夢遊病患者が殺人を犯しても
意識がないから罪に問えない!?

 ある女性は、真夜中にブルーベリーパイを完食し、翌朝、鏡を見て唇の青さと空の皿にようやく気づいた。まったく記憶がないという。別の女性は、冷蔵庫を開け、食材を取り出し、それを包丁で切り、コンロで加熱して料理を作っていた。

 これらは「睡眠関連摂食障害(SRED)」と呼ばれるノンレムパラソムニアの一種である。冷蔵庫を開ける、調味料を選ぶ、火を使う、といった一連の複雑な行動を“眠ったまま”こなす人がいる。それどころか、眠ったまま無意識の状態で自動車を運転することすらある。

 きわめてまれではあるが、眠ったまま殺人を犯す例さえ報告されている。

 1987年、カナダのケン・パークスという男性は、深夜に自動車を運転し、義理の両親宅へ向かい、工具で義母を撲殺し義父に重傷を負わせた。逮捕された彼は、その間の記憶を一切もたず、事件の直後に自ら警察署に出頭している。

 睡眠時遊行症の病歴があり、専門家の検証を経て「事件当時は深いノンレム睡眠中であり、意識がなかった」と結論づけられ、裁判では無罪となった。彼の“行動”は、彼の“人格”とは切り離されていたのである。

 芸術さえも“無意識”に生み出されることがある。英国・北ウェールズのリー・ハドウィンさんは、睡眠中に精緻で表現豊かな絵を描く“スリープ・アーティスト”として知られている。

 彼自身、起きているときには絵心がないと語るが、眠っている間、無意識にスケッチブックを取り出し、明確な構図と陰影を備えた肖像や風景を描き上げる。驚くべきことに、目覚めた彼は、自分が描いた絵の再現すらできないという。