ディープテックで行こう!科学者が喝!
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特集「ディープテックで行こう!」(全14回)の最終回は、公共財団法人大隅基礎科学創成財団の理事を務める阪井康能氏の寄稿文で締めくくる。研究者に短期的な成果ばかりが求められ、基礎研究がやりにくくなっている近年の日本の状況に対する危機感と、産業や社会に大きなインパクトを与える研究成果を生み出す方法について語ってもらった。

短期的な成果ばかりが求められ
基礎研究がやりにくくなっている

 筆者は微生物の研究者であると同時に、大隅基礎科学創成財団の理事を務めている。財団は東京工業大学の大隅良典栄誉教授が、2016年のノーベル生理学・医学賞の賞金を原資に創設した。現在は企業・個人からの寄付も受けている。

 日本では近年、研究者に短期的な成果ばかりが求められ、人類社会に本質的なインパクトを与える基礎研究がやりにくくなっている。このままでは早晩、優れた研究者が途絶えてしまう。この危機感から、財団は次世代を見据えた自然科学研究を助成している。今年末までに25人超の研究者に、1人当たり数百万~1000万円程度の助成金を支給する。

 これまでの審査の結果、助成対象となった研究者の年齢層を見ると、予想外に40代が多いことに気付く。この偏りは、応募段階の年齢層による人数の差を上回っている。雑ぱくに言えば、30代よりも40代の方が新しい発見に基づいた独創的な研究提案をしていると財団は評価したことになる。また財団の助成申請書には、「基礎科学に対する姿勢・考え方を自由記述せよ」という問いに答える欄がある。この問いは、即物的な成果よりも基礎科学の大きな飛躍を目指す研究者を支援するという、財団の運営方針に基づく。この問いに対しても30代の研究者からは、「今までに考えたこともなかった」という反応が複数あった。

 財団は年齢を問わず、過去の成果というよりは、独創的な発見を基に今後の研究を展開しようとする研究者を応援したいと考えている。だからこういった結果や反応は予想外のことで、若手研究者の将来に危機感を持つ。なぜこのような状況に陥ったのだろうか。

 日本では近年、研究資金の構造が大きく変化した。かつて国立大学においては、大学が自由に使途を決められる運営費交付金が研究を支えていた。これが減少した一方で、文部科学省と日本学術振興会が実施する科学研究費補助金(科研費)のような競争的資金が増えた(下図参照)。この変化について、「研究費の総額は大きくは減っていない。だから研究環境は悪化していない」という見方がある。だが、この見方は表層的だ。

 競争的資金では、研究者が提出した研究テーマ・計画を第三者が審査し、より優れたものに資金が配分される。主には府省によるもので、文部科学省のほか内閣府、総務省、厚生労働省など9府省(18年度)が実施している。これらの府省のほぼ共通した基準が、「どう社会に役立つか」だ。科研費の申請書には、研究成果が社会に及ぼす効果について説明する欄がある。この欄がいつできたのか明確に覚えていないが、少なくとも筆者が30代の頃はなかった。