またSNSでは他者の反応や流行に影響されながら意思決定が行われがちでしたが、AIエージェントが個人の価値観を踏まえて情報を整理するようになると、「みんながどう思うか」より「自分にとってどうか」が基準になります。

 これは心理面での大きな転換であり、他者との比較による不安を減少させる可能性があります。その結果、SNS特有の同調圧力は弱まり、閲覧時間そのものが減少することも考えられます。

「多くの人に認められたい」から
「自分を深く理解してほしい」に

 しかし、この未来には新たな課題も存在します。AIが常に肯定的で理解を示す存在であるほど、人間は摩擦の少ない関係に慣れてしまうでしょう。現実の人間関係には誤解や衝突が不可避ですが、それらは社会性を育てる重要な要素でもあります。

 もしAIとの対話が過度に快適なものとなれば、人は予測不能な他者との関係を避けるようになり、結果として社会的耐性が弱まる懸念もあります。これは幸福にとって重要な、人と人とのつながりを希薄化させてしまい、結果としてSNS離れが必ずしも社会的幸福の増大を意味するとは限らないことを示しています。

 さらに長期的には、承認欲求そのものの定義が変わるという可能性があります。これまで承認とは「多くの人から認められること」でしたが、AI時代には「自分を深く理解してくれる存在がいること」が中心になるかもしれません。

 それは、量的な評価から質的な理解への移行です。この変化が進めば、フォロワー数や拡散数といった、数の指標が持つ心理的価値は徐々に低下していくでしょう。SNS企業が依拠してきた注意経済モデルは根本的な再設計を迫られることになるでしょう。

 未来予測として考えられるシナリオは三つあります。

 一つ目は、AIによって日常的承認が満たされ、SNS利用が大幅に減少する静かな縮小シナリオです。二つ目は、SNSが専門家やクリエイター中心のクローズドなトライブメディアへ変化するシナリオ。そして三つ目は、AIとSNSが融合し、AIが仲介する形で人間同士がより安全に交流する新しいネットワークが誕生するシナリオです。

 どの未来になるかは、技術ではなく社会がどの価値を選択するかに左右されます。最終的に重要なのは、AIが承認欲求を代替するのではなく、その満たし方を変える点にあります。SNSが拡大した時代は「見られること」が価値でしたが、AI時代は「理解されること」が価値になるかもしれません。

 もしこの転換が実現すれば、人々は常に外部の評価にさらされる状態から解放され、より安定した心理状態を保てるようになる可能性があります。

 炎上におびえる社会から、自分にとって意味のある対話を選ぶ社会へと移行することこそが、AIパーソナルエージェントがもたらす最も大きな変化なのかもしれません。

(インテグレート代表取締役CEO 藤田康人)