つまり、成果主義と組織や企業のパフォーマンスとの間にはもういっちょ噛みする要素があると考えるわけです。
たとえば、今あなたがいる部署の全員の評価を、朝の始業時間前にどれだけ早く来られたかにするとしましょう。これを人事部門からいい渡されたとき、あなたならどう思いますか。
おそらく、「あの人は朝強いからいいけど、自分は嫌だな」と思った人もいれば、その逆の人もいると思います。「さすがにやべーだろ」と感じた人もいるかもしれませんが、ともかく、朝に強い人と弱い人で対立が起きます。これでは、組織がギスギスしますね。
このように、システムを導入すると人の関係や心理状態が変わり、行動に影響する可能性があります。
もちろん、新しいシステムを導入するとき、トップ・マネージャーや上司、責任者は説明に来てくれるでしょう。このとき、反発が多くてはそのシステムを導入しても成果は上がりません。これを避けるために、責任者たちはそのシステムの影響を受ける人たちに、きっちりと説明する必要があります。
保守的な企業で成果主義を
浸透させるのは難しい
大事なのは、そのシステムを理解しているかです。これまでと異なる原価計算方法が受け入れられ、理解されることによってより正確な価格設定ができるはずです。これがまさに、システムが浸透しているということです。
システムの浸透の重要性は、私の指導教員である神戸大学の松尾貴巳をはじめとする研究チームが、飯田という卸売企業を対象とした一連の研究で議論しています(松尾ほか2008;大浦ほか2009)。
システムを導入しても、わかってもらえなければ人の行動を変えることはできませんし、業績にも結び付きません。対立や反発だけでなく、システムの浸透がうまくいかなかったので、成果主義を新たに導入することが難しかったのかもしれません。
なお、飯田のケースの成否を正しく議論するには、コストの詳細な解説をしないといけないので、ここではシステムの浸透が重要だということだけ述べておきます。
当然ながら金銭が絡む可能性のある制度変更は、被評価者からの反発を受けるでしょう。人によっては、「自分の不利な評価方法に変更された」と感じるケースもあるはずです。そのため、システムを刷新することは簡単ではないといえます。
とくに日本企業の場合は契約書にサインをせず、暗黙的な契約で評価を実施してきました。ここに明確な評価を入れることには反発があるでしょう。
『評価と報酬の経営学 アイツの査定は高すぎる?』(濵村純平、光文社)
これは契約書を重視するアメリカと比べて、日本の特殊性がみえるところであり、業績評価システムの変更が難しくなる要因だといえそうです。
ほかにも、システムの浸透に影響する日本企業の性格があるかもしれません。日本企業の場合、先ほど述べたように長期的に同じ企業で働くケースが多いだけでなく、さまざまな職能を経験するケースが他国と比べて多い印象があります。
そのため、ほかの職能や企業のやりたいことへの理解も早くなりそうです。しかし、逆に「長くやってきた歴史と伝統」を崩されることが嫌いな人もいるのではないでしょうか。
微妙なテンション感ではありますが、長期的な視点に立っているからこそ、変えられない/変わらない強みをもっていると考えてしまい、システムの浸透や導入の阻害要因になってしまうのかもしれません。
その結果、成果主義にシステムを変更してもうまくいかなかった企業が出てきた可能性があります。







