出張中、座席で電子機器を触るビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

飛行機や新幹線での待ち時間や移動時間にもパソコンを開き、わずかな時間でも生産的に使おうと努めているビジネスパーソンは少なくないはずだ。だが、そもそも「移動時間をムダにするな」という空気はどこから生まれたのだろうか?社会学者が解説する。※本稿は、社会学者の伊藤将人『移動と階級』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

タイパ重視の社会において
移動は無駄な時間なのか?

 移動と成功をめぐる議論には、よく聞くパターンがある。それは、「移動中の時間を無駄にしない人が成功する」という“移動時間術”に関するものである。

 その多くは、生産性やタイパ(タイムパフォーマンス)の向上を達成するために、移動中に実践するべきことを教えてくれる。よくあるのは、移動時間は読書するべき、最新ニュースをチェックするべき、メールの返信は移動中に行うべきなどの“ハック”である。一見すると、これらはスマホが登場し、Z世代のタイパ重視が叫ばれる現代固有の主張に思われるが、調べてみると数十年前の本でも同じような主張はされていた。

 ただ、パソコンとインターネット、そしてスマートフォンの登場と普及が、これらを利用できる人々、駆使して仕事をする人々の生活様式や働き方、さらには自己と他者の新しい関係の形式をもたらすようになったことは明らかである。パソコンやスマートフォン、電子タブレットやスマートウォッチなどといった「小型化されたモビリティーズ(Elliot and Urry:2010)」は、「移動しながらの生活」を促し続けている。

テクノロジーの進化によって
移動時間が「生産的な時間」へ

 小型化されたモビリティーズに侵食された世界では、移動時間は、移動をしながら遂行される仕事、ビジネス、レジャーなどの活動を中心にまわるようになっている。つまり、今日の輸送システムと新しい情報伝達技術の間に存在する複雑な結びつきが意味するのは、移動時間は個人にとって退屈で、非生産的で、無駄な時間ではなく、むしろ、職業上あるいは私的な活動において生産的に使われているという事実である。