『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第10話「山と谷」から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
少年院の教育プログラム『人生山あり谷ありマップ』
幼女への性加害により少年院に収容された15歳の出水亮一(仮名)は、院内で性加害防止プログラムを受けることになります。
国内の少年院では、J-COMPASS や JUMP(知的なハンディをもつ性非行少年向け) と言われる認知行動療法の理論に基づいたプログラムが実施されています。ただ、いずれもまだ十分な効果までは実証されていないようです。
特に、発達障害をもつ性非行少年に対しては、世界的に見てもエビデンスが確立された支援プログラムはほとんど存在しません。なかでも自閉スペクトラム症(ASD)は、「こだわり」という特性が性的問題行動と結びつく場合もあり、その結びつきを断ち切ることは非常に困難です。
亮一はIQ92で、知的能力に大きな問題はありませんでしたが、自閉スペクトラム症の特性をもっていました。自分が性非行を起こしたという当事者意識が低く、事件をどこか他人事のように捉えています。本人にふざけている意図はありませんが、その態度が周囲には軽く見えてしまい、結果として矯正教育には多くの手間がかかるのです。
今回のマンガでは、著者がかつて少年院で実際に行い、一定の手ごたえを感じたワークを、要之鹿少年院(仮名)の教育プログラムとして紹介していきます。
最初に行うのは、自分のこれまでの人生を振り返ることで、それがどのように性非行につながったのかを理解するためのワークです。『人生山あり谷ありマップ』というシートを用い、グループ形式で実施します。
グループで行うことには、いくつかの利点があります。いじめ被害や被虐待などのつらい経験をしてきた少年たちは「つらかったのは自分だけではなかった」「自分はまだ恵まれていたのかもしれない」「あいつは、あの体験で性非行に至ったのか」といったように、他者の人生を通して自分自身を見つめ直すことができます。
また、参加者が対等な立場であるため、本音が出やすいというメリットもあります。
ただ中には、人前で話すことが恥ずかしい少年もいます。その場合は、グループリーダーの関わり方や場づくりの力量が問われます。
『人生山あり谷ありマップ』は次のようなグラフを作ります。
縦軸:上が「よかったこと」、下が「悪かったこと」
横軸:時間の流れ(左端が出生時、右端が現在)
なお、横軸にはあえて目盛りを入れません。そうすることで、少年にとって重要な時期は長く、そうでない時期は短く描かれ、理解の手がかりになります。
亮一のマップは、生まれた直後から下向きに始まります。理由は両親の離婚です。その後、小学校に入って友だちができたことで曲線は上昇します。
しかし、その「よかった時期」は長く続きません。小学3年生でいじめを受け、人生は再びどん底に落ち込みます。この経験は、亮一にとって大きなトラウマとなりました。さらに小学5年生になると、同級生の女の子に対して「性のめざめ」が生じます。このように人生を視覚的に整理することで、亮一が性非行に至るまでの背景や積み重なった要因が、本人にも周囲にも理解しやすくなるのです。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







